縫合手術を終えた大使に


 朴槿惠大統領は中東歴訪から戻ると、その足で大使の入院先を見舞った。誠意を示したのだろうが、大使への見舞いの言葉は日本人の波長とは到底合わない。

 慰めの言葉はあったが、謝罪の言葉はやはりない。そして、06年に自らも顔を切られるテロに遭った経験を挙げて、こう述べた。

 「それからの人生はおまけだと思って、国と国民のために生きると決心した。大使も今後、韓米同盟のために多くのことをしてくれるという気がする」

 八十針もの縫合手術を終えたばかりの大使に向かって、何という押し付けがましい言葉だろうか。

 アンタに俺の人生航路まで決めてもらいたくないよ──と、なんて一国の大使が言うはずがない。大使は「私も、おまけで得られた人生と時間を家族と韓米両国の関係のために」と応じた。これぞ外交辞令というものだろうに、大統領周辺は「韓米関係が強固になった」と大はしゃぎ。

 親米保守派は、まさに鉦や太鼓を打ち鳴らして「リッパート全快」を祈る街頭パフォーマンスを繰り広げた。李王朝の後裔と称する老人は(これは本当に善意だったようだが)、犬肉を見舞い品として届けた(病院が受け取らなかった)。中央日報(15年3月9日)に至っては、「リッパート効果」なる心ない造語を見出しに立てた。

 そうしたなかで朴大統領は、「世界で最も成功している同盟と評価される韓米同盟が前代未聞の攻撃を受けた……だが私たちは、この危機をさらに強力な韓米同盟への契機とする成熟した姿を見せた」(ソウルCOEX祈会、15年3月12日)と事件を総括した。

 韓国のコウモリ外交によりガタついている米韓同盟が「世界で最も成功している同盟」であり、大はしゃぎの「リッパート効果」が誇るべき「成熟した姿」であるらしい。

もしやキリストの心意気?


 朴大統領は支持率が低下してくると、あばら家のような商店がひしめき、屋台が連なる市場に出向く。カボチャの葉を買ったり、おばあさんに声を掛けたり……きっと「門番三人組」の配下が、どこで何を買うか、誰に声を掛けるか段取りを決めて、厳重なガードを張り巡らしているのだろうが。

韓国・ソウルにある明洞聖堂
 そして、危機を感じさせる時にはしばしば教会や寺に出向いたり、宗教関係者と懇談したりする。

 上記のCOEXも、キリスト教(おそらくプロテスタント系)の組織と思われる。大統領は事件総括の続きで述べた。

 「イスラエル民族が広野の試練を一つの心で勝ち抜いた時、乳と蜜が流れる土地カナンに至ることができたように、私たちもいま、葛藤と分裂の足枷を克服するならば新しい祝福の時代に進むことができると信じる」
 「羊の群れの世話をする羊飼いの気持ちで、韓国の新時代を切り開いていくことに全力を尽くす」

 キリスト教では、民は「迷える羊」であるらしい。国民を「羊の群れ」に譬えることに問題はないのかもしれないが、朴槿惠氏はもしやモーゼかキリストの心意気なのだろうか。

 ちなみに韓国統計庁の資料によると、韓国の宗教人口は53・1%で、仏教22・8%、プロテスタントが18・3%、カトリックが10・9%、儒教0・2%など。

 大統領のこうした発言に、仏教徒の反発が聞こえてこないのは不思議だ。

 漢字をほとんど放棄してしまった韓国だが、「国格」という熟語は韓国人が最近、漢字を基に創り出した(実際に新聞紙面に出てくるときは「クッギョク」と読むハングル表記)。

 私が愛用する小学館と韓国・金星社の共同編集による「朝鮮語辞典」にも載っていない。おそらく、日本でベストセラーになった藤原正彦氏の『国家の品格』(新潮新書)をヒントに創作されたのだろう。中央日報にこの熟語が初めて出てくるのは09年9月28日のことだ。

 韓国語で言う「国格」とは「国家の品格」ではなく、「国家としての総合的な格」といった意味で使われる。

 ランク付け大好き国家ならではの造語ともいえる。

朴大統領の偉大なるギャグ


 朴大統領も、「国格」という造語を使って面白いことを述べている。

 「言葉は人格を表し、国民を代表する人たちの言動は国格を表す。……私たちは相手に対して深く配慮しなければならず、それがまさに国格と直結する重要な資産だ」(首席秘書官会議、13年7月15日)

 野党による大統領非難が続き、ある議員は「鬼胎(生まれてきてはならなかった人)だ」とまで言った。

 そうした「野党の暴言攻勢」に対する反論なのだが、それが朴槿惠氏の口をついて出た言葉となるとどうだ。

 南北統一問題では「テバク」(儲け時といった意味)という博打用語を使い、「ギロチンで一気に処分すべきだ」と指示をした国家元首がその一方で、「言葉は人格を表し、国民を代表する人たちの言動は国の国格を表す」と教訓を垂れていた。まさにギャグだ。

 朴槿惠氏は「引きこもり型元首」だが、その職責上、さまざまな式典、会議に出席すれば、実によく話す。 「国民を代表する人たちの言動は国格を表す」と朴大統領自身が明言している。

 朴槿惠大統領の発言を、その政治社会的背景に留まらず、どんな文化的背景のなかから出てきたのかを探ることは、韓国の国格を理解するうえで有効な手段だと思う。

 朴槿惠大統領がますます語ってくれることを期待してやまない。

むろたに・かつみ 1949年、東京都生まれ。評論家。慶応大学法学部を卒業後、時事通信社入社。政治部記者、ソウル特派員、宇都宮支局長、「時事解説」編集長を歴任。2009年に定年退社し、評論活動に入る。著書に『悪韓論』『日韓がタブーにする半島の歴史』(新潮新書)、『呆韓論』(産経新聞出版)、『妄想大国・韓国を嗤う』(共著、PHP)など多数。