佐藤:戦前の未完のファシズムも、平成の中途半端なディストピアもそうした日本の社会構造が生んだとも言えます。私はディストピアが求められる社会には、実は希望があると感じます。

片山:なるほど。逆説的にいえば、きっとそうなのでしょうね。

佐藤:2011年からロシアで放映された『月の裏側』というテレビドラマがあります。モスクワで連続殺人犯を追う警官が1977年のソ連にワープする。警官を続けながら現代に戻る方法を模索する主人公が、ソ連崩壊を経験し、現代に戻ってくる。

片山:面白そうなストーリーですね。

佐藤:実際、大ヒットして続編が作られた。セカンドシーズンでは前作で起きたあることが原因で、ペレストロイカが行われず、ソ連が崩壊していない。

 地上にはソ連製のボロいクルマが走っているんですが、空中には飛行船が飛んでいる。紙幣は廃止されて電子マネーが使われている一方、コカコーラも西側のラジオも禁止。KGBが絶大な権力を持つファシズム国家として存続している。

片山:続編はパラレルワールドものになったわけか。興味深い内容ですね。

佐藤:でもセカンドシーズンは、ロシア人にまったく受け入れられなかった。まるでいまのロシアそのものじゃないか、と。

片山:ロシアの人たちは、現実を見せられた気分になったのか。

佐藤:そこですよ。ロシアにはいまほとんどディストピア小説がありません。なぜならプーチン政権がディストピアそのものだから。

片山:だから逆にディストピア小説が読まれる社会にはまだ希望がある、と。

佐藤:ええ。ただし、あと一歩進めば、小説を笑えなくなる日が来ることも、この国の作家たちは分かっているから作品を発表し続けているのだと思います。

●さとう・まさる/1960年生まれ。1985年、同志社大学大学院神学研究科修了後、外務省入省。主な著書に『国家の罠』『自壊する帝国』など。片山杜秀氏との本誌対談をまとめた『平成史』が発売中。

●かたやま・もりひで/1963年生まれ。慶應大学法学部教授。思想史研究者。慶應大学大学院法学研究科博士課程単位取得退学。『未完のファシズム』で司馬遼太郎賞受賞。近著に『「五箇条の誓文」で解く日本史』。

■構成/山川徹、撮影/小倉雄一郎

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