小倉正男(経済ジャーナリスト)

 今の「グローバリゼーション」が開始されたのは1992年とされている。前年末にソビエト連邦が崩壊し、アメリカを中心とする西側諸国とソ連を中心とする東側諸国との冷戦が終わった。アメリカの単独覇権が確立され、資本主義が社会主義に勝利した。共産党独裁国がいくつか残ったが、全世界のほとんどが資本主義に塗り替えられた。

 「グローバリゼーション」によって顕著にもたらされたのは、資本の世界化、ボーダレス化である。資本には、国境がなく、究極的には祖国もナショナリズムもない。資本の「祖国」は、資本であり、利益あるいはおカネということになる。

 中国は、ソ連崩壊直後の1992年から“社会主義市場経済”を標榜する転換を行った。中国は、共産党独裁という政治権力構造を残存させながら経済は市場を中心とする資本主義という異形なシステムに移行した。かつてならソ連に「修正主義の極み」と非難されていた変貌だった。

 中国は極度に低迷する経済を抱えて貧困や飢餓、失業に喘(あえ)いでいた。社会主義市場経済という“羊頭狗肉の策”まで用いて、閉ざしていた国を開かざるをえなかった。中国もこのままではソ連と同じく体制崩壊が避けられない。中国は背に腹は代えられない行動に出たのである。

 過剰なほど豊富な人口による安い労働力、そしてマーケットの巨大な潜在力を睨(にら)んでドイツなどEU(欧州連合)、アメリカ、そして日本、さらに韓国、台湾などからも資本、設備機械、技術が中国に流入していった。最初は恐る恐るというものだったが、2000年代前半あたりからどっと流れ込んでいった。

 中国は瞬く間に「世界の工場」となり、アメリカに次ぐ世界第2位の経済大国に飛躍をとげた。今では中国を核にして世界の製造業サプライチェーンが網の目状に構築されている(新型コロナウイルスによる今の世界的な経済停止状況は、中国に過剰にサプライチェーンが集中しており、「世界の工場」になり過ぎていることのクライシスを顕在化させた)。

 「グローバリゼーション」の恩恵を最大に享受したのは、まぎれもなく中国だった。豊富で安い労働力というものだけで、世界の資本、設備、技術を中国に呼び込んで事実上わがものにしたのである。

 この「グローバリゼーション」によってもたらされたものは、世界的な「貧富の格差」だった。当の中国もそうだが、アメリカなどで極端な「貧富の格差」という問題が生じている。中国の安い労働力が、世界の中・低資産階級から仕事を奪い取っていったという事実が否定できない。
※画像はイメージ(ゲッティイメージズ)
※画像はイメージ(ゲッティイメージズ)
 「右か左か」ではなく、「上か下か」ということが今、世界的に問われている。アメリカでは納税者の上位0・1%の人々が富の20%を握っているといわれている。上位1%で39%の富を握り、90%の人々が貧困に喘いでいる。ドナルド・トランプ大統領は上のクラスにいるのは間違いないが、案外なことに「貧富の格差」という問題が彼を大統領にした側面がある。