中国のご機嫌をとるEU


 IMFは、SDR構成通貨の見直しを5年ごとに行う。人民元は今年10月に、IMF理事会の議題に上がる予定だ。北京は2010年にも申請したが、IMF理事会は却下した。

 IMFの審査基準は二つあり、通貨発行国の輸出量と、その通貨が国際的に自由利用可能通貨かどうかという点だ。2010年の審査では、人民元は第一の基準のみに適合していた。これから実施する新段階の審査は、人民元国際化への最新の進展状況を評価するという。

 中国は10年以降、アジアを中心に国有商業銀行を現地進出させ、人民元資金を現地に供給して貿易の人民元決済を普及させてきた。習近平政権は、さらにロンドンなど国際金融センターに人民元の決済拠点を置き、国境を越えた銀行間の人民元取引を活発化させようとしている。

 中国の要請に対するラガルド専務理事の態度は、中国では前向きとも受け取られている。北京より前に訪問した上海では、復旦大学で講演したあとの質疑応答で「採用されるかどうかの問題ではなく、いつ実現するかという時間の問題だ」と述べた。「依然として多くの作業が必要とされており、これは誰もが認識していることだ」とも付け加えたのは、国際官僚特有の処世術だ。

 IMFの決定に米国と並んで最も強い影響力がある英、独、仏など欧州主要国は、英国を皮切りに雪崩を打つようにしてAIIBに参加したいきさつがある。英国はロンドン金融市場を海外での人民元決済の最大の拠点としようとして、対中譲歩を重ねてきた。

 AIIB参加はもとより、習近平政権によるチベットなどでの人権抑圧、旧英国領の香港での民主化要求デモにも一切口をつぐみ、ウィリアム王子に北京を訪問させて習総書記の機嫌をとるなど、卑屈なばかりの対中配慮外交である。

 フランスは欧州連合(EU)の対中武器禁輸の抜け道を使って2013年にヘリコプター着艦装置を輸出するなど、これも実利先行だ。ドイツもフランクフルト市場での人民元決済で英国に対抗しようとするほか、中国市場でのビジネス利権確保に躍起となっている。

 10月のIMF理事会では、日本と米国だけが人民元のSDR通貨採用に反対しそうだが、米国も中国でのビジネス利権拡張の餌をちらつかされると最終的に転ぶかもしれない、という不安がないわけではない。日本の財務省筋は、「いずれにせよ時間の問題になっている」と無気力だ。財務官僚と言えば、IMFに気前よく資金を出しては消費税増税を対日勧告させる工作だけは熱心だが、国益がかかる人民元問題ではまるでおとなしい。

本質は外交・安全保障


 ここで、AIIBに立ち返って詳細に問題を検討してみる。

 まず目に付くのは、日本を含め世界のメディアでは一般的に言って、中国の政治経済システムについてごく基本的な理解を欠いていることだ。それは中国のあらゆる政府組織、中央銀行(中国人民銀行)とも軍と同じく、習近平党総書記・国家主席を頂点とする共産党中央の指令下にあることだ。日米欧のように三権分立、民主主義制度が確立されている国とは根本的に異なる。

 中国主導のAIIBも中国人民銀行と同じく党中央、あるいは習近平総書記の直轄下に位置づけられよう。AIIBは形式上では中国財政省に管轄されるが、財政相は党のランクでは下位にあるので、党中央政治局常務委員会の意向に従わなければならない。

 だからこそ、AIIBは多国間の機関であっても、中国は当初から資本金の50%出資を表明し、今後出資国が増えても40%以上のシェアを維持する構えだ。総裁は元政府高官、本部も北京。主要言語は中国語。今後、何が起きるか、火を見るよりも明らかだ。

 たとえば、党中央が必要と判断したら北朝鮮のAIIB加盟が直ちに決まり、同国向け低利融資が行われて日本の経済制裁は事実上、無力化するだろう。あるいは党の指令によって、東南アジアや南アジアでの中国の軍艦が寄港する港湾設備がAIIB融資によって建設される。AIIB問題の本質は外交・安全保障であり、平和なインフラ開発資金の融資話は表看板に過ぎない。

 いま、政府内部や産業界、朝日、日経新聞などメディアの一部でAIIB出資論が出ているが、実質的には「党指令先の組織に日本もカネを出せ」という意味になり、ブラックジョークである。日本政府は参加のためには、融資基準などの透明性に疑問があるとして6月末までに参加するかどうかを先送りしたが、4月はじめには「対処方針」なるものをメディアにリークした。それによると、参加する場合は当初、1800億円出資するというが、国内の参加要求勢力に説明する必要に迫られたからだ。

 事実、福田康夫元首相らAIIB賛同者には「親中派」の自民党重鎮もいる。彼らは、「AIIBは英独仏など欧州主要国も参加する多国間の協力機構ではないか、党中央に支配されるはずはない」という具合に反論するだろう。

メディアの見立ての甘さ


 世界銀行、アジア開発銀行、国際通貨基金(IMF)など既存の国際金融機関は主要出資国代表で理事会を構成し、運営されている。楼継偉財政相は3月22日に北京で開いた国際会合で、「西側諸国のルールが最適とは限らない」と強調した。

 同財政相ら当局者はこれまで、世銀やアジア開銀などのように頻繁に開かれる理事会による決定方式を否定し、トップダウンによる即断即決方式を示唆してきた。AIIBの北京本部には常設理事会を置かず、各国代表の理事は各国に在住するままで、年に一度程度の総会に参加するだけだから、これではまるで党が指揮する議会、全国人民代表大会(全人代、年一度開催)同然である。

 4月10日には、「日中議会交流委員会」のため来日した全人代代表がAIIBについて日本側から示されたガバナンス面での懸念に対し、「公開性、透明性をもってやっていく」と述べた。彼らにとっての透明性とは、党トップに指示された政策をそっくりそのまま公開、実行することなのだ。

 圧倒的な出資シェアを持つ中国の意図は、世銀やアジア開銀などと全く違う中国共産党式の意思決定方式なのである。親中派のメディア、財界、政治家はその現実を直視しようとしない。むしろ党幹部との接点を持つとうきうきする。何と不見識で無知なことか。