日経や欧米専門紙の甘さ


 日経新聞は「AIIBの否定や対立ではなく、むしろ積極的に関与し、関係国の立場から建設的に注文を出していく道があるはずだ」(3月20日付社説)と論じたが、仮に日本がマイナーな出資比率(1800億円でも、資本金500億ドルの場合で出資比率は3%)で参加したところで、党中央に伺いを立てるAIIB総裁の意思決定に影響力を持てるはずはないだろう。

 日経に限らず、欧米の経済専門紙もその甘さには目を覆いたくなる。米国の制止を振り切って参加を決めた英国のメディアも、

 「中国が3兆8000億ドルに上る外貨準備高のごく一部をAIIBに投じたいと思っている。中国が強い発言力を持っても、多国間機関で行いたいと言っていることは良いニュースだ」(3月25日付フィナンシャル・タイムズ紙)

と持ち上げた。世界最大の外貨準備という「資力」を持つ中国が、アジアなどのインフラ建設資金融通を主導できるというのはとんでもない誤解である。

 中国の外準残高は2014年末で3兆8430億ドル(世界2位の日本は1兆2000億ドル)もあるが、実は半年間で約1500億ドルも減った。ユーロ債の値下がりなど運用の失敗に加えて、景気の低迷や不動産相場の下落のなかで、資金流出が年間で4000億ドル以上に上るからである。無論、習近平政権による不正蓄財追及から逃れるために、一部党幹部らが裏ルートで資産を海外に持ち出していることも影響している。
 外準は、人民銀行による人民元資金発行の原資になっている。外準が減ると、中国経済が貧血症状を起こす。そこで中国は急激な勢いで、国際金融市場から借り入れを増やしている。外準を対外融資に役立てるどころか、外から借金して外準のこれ以上の縮小に歯止めをかけようと躍起となっているのが実情だ。世界最大の外準は見せ金にしか過ぎず、惜しみなく対外信用供与に回すはずはない。

中国は「債務大国」


 以下はかなり専門的な話になるが大事なポイントなので、知っておいてもらいたい。

 対外資産から対外負債を差し引いたものが「対外純資産」である。純資産が多ければ、それだけ外部からの借金に頼らず、外部により大きな債権を持つのだから「債権大国」と呼ばれる。第1位は日本、第2位が中国、第3位がドイツである。中国の対外純資産は14年9月末時で1・8兆ドルの対外純債権を持ち、日本に次ぐが、外準を除くと負債は資産を2・4兆ドルも上回る。

 外準も資産には違いないが、融資や証券のような他の金融資産と同列に扱うことはできない。金融用語では、すぐに現金化できない資産のことを「流動性に乏しい」というが、外準はその類いである。おいそれとは動かせないのだ。つまり実質的な中身からすれば、中国は「債権大国」どころか債務大国なのである。

 ロンドンなど国際金融市場にとってみれば、資本逃避に悩む中国は国際金融界にとって発展途上国のなかで最大の融資先、お得意先になっている。国際決済銀行(BIS、本部スイス・バーゼル)によると、中国の海外の銀行からの借入残高は14年9月末、1兆700億ドルで、前年比2800億ドル増えた。世界全体での国際銀行融資2700億ドル増を凌ぐ。

 英国の参加はロンドンが取り仕切る国際金融界が中国の野心のあとを押し、その上がりで儲けようという強欲主義そのものだ。それは戦前、ナチスにカネを流した国際金融界の姿とダブる。英国はお得意さん中国のAIIB参加要請に応えたのだろうが、国際金融界はリスクに応じて高い金利を要求するだろう。

 巨額のインフラ・プロジェクト融資が北京主導でできるはずはない。アジアのインフラ建設資金需要は、アジア開発銀行研究所が2009年9月にまとめた見積もりが唯一の参考資料である。それによると、2010年から2020年の11年間で総額8・3兆ドル、年間平均では約7500億ドルに上る。

資金調達ができるのか?


 この巨額インフラ投資の経済効果に関して、報告書は、2010年以降、アジア開発途上国の実質所得が13兆ドルも増加する、と見込んでいる。具体的には中国が3兆5500億ドル、インドが3兆1400億ドルと突出しているが、インドネシア1兆2800億ドル、タイ1兆2400億ドル、マレーシア8300億ドル、ベトナム4000億ドルなどの実質所得押し上げ効果を持つという。

 7500億ドルの資金調達と言ってもピンと来ないが、世銀、アジア開銀などの国際金融機関は、主として国際金融市場で債券を発行して調達した資金を融資する。その場合、各国政府および政府機関が債務返済保証をする。国際金融機関はメンバー国の政府が共同出資しているという信用があり、貸出先は政府が保証するのだから、国際金融機関が発行する債券はトリプルAの格付けが与えられる。

 AIIBは当然、世銀やアジア開銀並みの格付けを狙うわけだが、ちょっと待ってほしい。そもそも、年間7500億ドルの資金を市場から調達できるのか。

 そこでBIS統計から、国際金融市場でどのくらい債券による資金調達がなされているのか、調べてみた。

 2013年は全世界で5130億ドル、2014年は6740億ドルである。このうち、世銀、アジア開銀など国際金融機関の調達分は13年が1140億ドル、14年が1387億ドルである。

 最近の二年間をみる限り、年間7500億ドルもの資金を市場調達できるはずはない。

 金利を高くするなど、よほど好条件で投資家を引きつけないことには資金調達できない。つまり、資金需要が一挙に高まるのだから金利が高騰してしまう。資金調達コストが上がれば、借り入れ国もたまったものではない。7500億ドルと言わないまでも、AIIBが巨額の資金を調達するのは市場の状況からみて不可能のように思える。

 しかも、中国の債務証券発行額は増加の一途で、途上国全体の5割近いシェア(2014年)を占め、国際金融機関の発行額を上回っている。そんな情勢のもとで、AIIBという新しい国際金融機関が巨額の資金調達を行えるとは信じがたい。

 4兆ドル近い中国の外貨準備はそもそも見せ金に過ぎないのだが、それを取り崩してAIIB融資の原資とするならよかろう。参加国は大いに結束して、中国に外準を吐き出せと迫るべきだ。が、北京はそれも合点承知、各国が徒党を組んで北京に迫る場になりかねない理事会を常設しないのだ。

 真相はどうやら、中国は世界を巻き込む形で資金を調達し、行き詰まった経済成長モデルを建て直そうと狙っていることだ。