甘い対中幻想をただせ


 AIIB加盟国のなかでもっとも多くのインフラ資金を必要としているのは中国であり、その規模は他国を圧倒している。その事実を明らかにしたのは、他ならぬ習近平党総書記・国家主席である。

 3月下旬に海南省博鰲で開かれた国際会合で習氏は、「新シルクロード経済圏」構想の詳細を発表した。その付属文書で、「中国国内での建設中または建設予定のインフラ投資規模は1兆400億元(約1673億ドル、約20兆928億円)、中国以外では約524億ドル(約6兆2707億円)に上る」という。

 AIIBは同経済圏に必要な資金を提供することになっているが、当面の資金需要の76%は中国発である。習政権は、自国単独では限界にきた国際金融市場からの資金調達を多国間機関名義にしようとするのである。

 日本という世界最大のカネの出し手、債権国と、米国というドルの総元締めの参加抜きに、AIIBは世銀やアジア開銀のようにトリプルAの債券格付けを取得できず、せいぜい中国国債並みのシングルAが関の山だと債券の専門家はみる。要するに、低い金利での資金調達には難がある。

 だとすれば前述したように、中国自身が人民元を発行してAIIBに貸し付ける手がある。それには、人民元が広く借入先に受け入れられることが条件になる。そのためには人民元が国際通貨である必要がある。だからこそ前述したように、IMFによるSDR構成通貨の認定を北京は渇望するわけだ。

 中国がAIIBを創立し、アジア地域全体でインフラ投資ブームを演出する背景は、自身の窮状を打開するためだ。鉄道、港湾、道路などで需要を創出し、中国の過剰生産能力、余剰労働力を動員する。そのために必要な資金は、AIIBの名義で国際金融市場から調達する。人民元を受け入れてくれれば、外貨による調達を補える。

 そして、中国主導の経済圏が拡大するにつれて、人民元が流通する領域を拡大させ、ゆくゆくは人民元を基軸とする経済圏を構築する。各国が人民元に頼るようになれば、外交面での中国の影響力が格段に強化される。AIIBは行き詰まりを見せている中国経済成長モデルの再構築と、党支配体制維持・強化のための先兵なのである。日本がそんな北京の思う壺にはまりこんでよいはずはない。

 アジアでの中国の外交・軍事戦略を助長するという側面には、米国も無関心ではいられないはずだ。中国関連のビジネス利権に米国の目がくらまされないよう、日本はしっかりとワシントンに対し、日本やアジア各国が受ける脅威の大きさを説明し、AIIBや人民元帝国問題では日本が米国をリードする機会にすべきだろう。これまでのように対米追随であとは無思考というのでは、中国の人民元帝国膨張戦略に対抗できそうにない。

 安倍政権は集団的自衛権など安全保障法制の整備などで日米同盟強化をめざすが、それだけでは人民元帝国の台頭には対応できそうにない。米国の対中外交をぐらつかせてはならない。日本は対米従属型と決別し、米国をリードする決意が必要だ。そのためには、国内の甘い対中幻想を厳しくただす必要があるのだ。

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