上久保誠人(立命館大政策科学部教授)

 学校法人「森友学園」(大阪市)をめぐる財務省の公文書改ざん事件に関連し、2018年3月7日に自ら命を絶った財務省近畿財務局管財部の上席国有財産管理官・赤木俊夫さん(享年54)が、死の直前に遺していた「手記」が明らかになった。そこには、改ざんは「すべて、佐川(宣寿・のぶひさ)理財局長の指示です」と書かれており、赤木さん自身が不法行為に加担させられて心身ともに苦しんだ様子が克明に記されていた。

 赤木さんの遺族は、国などに損害賠償を求めて提訴した。国会でそのことを問われた安倍晋三首相は、赤木さんの手記を読んだことを明かして、「職務に精励していた方が自ら命を絶たれたことは痛ましい出来事であり、胸が痛む思いだ。ご冥福をお祈りしたい」と述べた。だが、再調査については、検察の捜査や財務省の調査が終わっていることをあげ、否定的な姿勢を示した。

 安倍首相の赤木さんに対する「お悔みの言葉」を聞いて、それを心からの言葉だと思う人は、ほとんどいないのではないだろうか。また、再調査を行わない理由は、首相が自らのウソを蒸し返されたくないからだと、多くの人が思っているのではないだろうか。

 深刻な問題がある。安倍首相の言葉を誰も信じられなくなっており、国民の間にシラケた空気が広がっていることだ。

 首相は、国民の信頼を完全に失っているようだ。その結果、安倍首相の存在自体が、肺炎を引き起こす新型コロナウイルスの感染拡大という未曽有の「有事」が起こっている今、日本が負う最大のリスクとなっているように思う。

 安倍首相は、日本の憲政史上最長の政権を築いてきた。だが、その間に、首相の言葉を国民が信頼しなくなっていった。本稿では、その経緯を振り返りたい。

 まず、森友学園が大阪府豊中市の国有地を評価額より大幅に安く取得した問題である。14億円相当の国有地が実質200万円で売却された不可解な経緯に、安倍首相と昭恵夫人の関与が疑われた。だが、首相は「私と家内、事務所も一切関わっていないと申し上げた。もし関わっていたら私は政治家として責任を取り、議員を辞職する」と明言した。

 しかし、首相夫妻や政権幹部が同学園の寄付集めや小学校認可を後押ししているかのような印象を強める事実が、次々と出てきた。そして、財務省によって国有地売却に関する決裁文書が書き換えられたことが明らかになった。

 契約当時の文書には、学園との取引について「特例的な内容」との表現があり、学園の要請への対応が時系列的に記述されていたが、国会に開示された文書では、それらが消えていた。財務省は国会で、森友学園との事前の価格交渉を否定し続けてきたが、それを根底から覆す内容であった。
2020年3月18日に公表された赤木俊夫さんの手書きの遺書。「これが財務官僚王国 最後は下部がしっぽを切られる。なんて世の中だ」などとつづられていた
2020年3月18日に公表された赤木俊夫さんの手書きの遺書。「これが財務官僚王国 最後は下部がしっぽを切られる。なんて世の中だ」などとつづられていた
 その後、近畿財務局で国有地売却の交渉・契約を担当した赤木さんが自殺し、遺書があったと報じられ、当時の財務省理財局長だった佐川国税庁長官が辞任する事態となった。

 「最強の官庁」「最強のエリート集団」とされたはずの財務省が公文書改ざんという不正に手を染めてしまったのは、安倍首相の「関わっていたら政治家として責任を取る」という答弁と、決裁文書の内容を合わせざるを得なくなったからとみられている。言い換えれば、財務省は安倍首相から「責任」を押し付けられたのだ。