しかも、全国一斉休校の決断に対しては、残念ながら首相の期待通りに支持は高まらず、むしろ国民の戸惑い、怒りが広がってしまった。安倍首相が焦ってさらなる決断をしようとしたら、危ないことになる。

 例えば、政府の新型肺炎への対応で最も批判が多い、ウイルスを高精度で検出する「PCR検査」についてだ。この検査の実施件数が、2月27日現在で韓国が4万4157人に対して日本では1890件と、実に23分の1にすぎなかったことから、国内外から批判を受けている。そして、この検査を希望者全員が受けられるような体制を早急に確立すべきだという訴えが広がっている。

 この国民の強い訴えに、安倍首相がトップダウンで応えてしまうと大変なことになる。現在の精度が低いPCR検査では、陰性と診断されたが実は陽性だったという「偽陰性」が数%くらい発生する。偽陰性と診断された人がお墨付きをもらったことで外出してウイルスをまき散らしてしまうリスクがある。

 また、PCR検査を全面的に解禁すると、ウイルス感染の可能性がある人が病院に殺到する。高齢者や基礎疾患のある外来患者や入院している人や、医師や医療スタッフが感染する可能性がある。要するに、医療崩壊を起こすリスクは、あらゆる面で格段に高まってしまう。

 実際、日本の約23倍のPCR検査を実施している韓国では、新型肺炎の感染者数が8900人を超え、死者も110人に達している。日本はクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の乗船者を除くと、国内発生は1089人、死者41人だ(いずれも3月21日現在)。韓国では、PCR検査を徹底的に実施したことが新型肺炎感染者を激増させる原因となってしまっていると考えられるのだ。

 「ダイヤモンド・プリンセス」乗船者の感染拡大も、国内外から批判はされたが、一方で米国からは対応を感謝されている。要するに、厚労省などの官僚は、新型肺炎についてベストではないにせよ、ベターな対策を慎重に進めてきたといえる。

 だが、3月13日に改正新型インフルエンザ等対策特別措置法が成立した。私権制限につながる緊急事態宣言を、安倍首相が行うことができるようになる。しかし、安倍首相が今までの対策をちゃぶ台返しして、独断で決めるということは、危険なことである。

 全国一律休校の決断は、「結果オーライ」かもしれない。しかし、今後は、国民をパンデミック(世界的大流行)の危険に陥れる決断を、自分一人で決めてしまわないことを願いたい。

 指導者は平和なときから謙虚に振る舞い、国民の信頼を積み上げておかなければならない。それは、「有事」の際にその「信頼」を消費して、国民には不満でも大事なことを決断しなければならないからだ。

 一方、平和なときにいい気になって「傲慢(ごうまん)」に振る舞い、国民の信頼を失った指導者は「有事」に自らの信頼がないことに焦って、人気取りをやってしまう。それは間違いなく「亡国」への道である。
新型コロナウイルスの感染拡大に備える改正特措法が可決、成立した参院本会議=2020年3月13日
新型コロナウイルスの感染拡大に備える改正特措法が可決、成立した参院本会議=2020年3月13日
 安倍首相は、これまで国民の信頼を失う言動を繰り返した自らが、「有事」の際の「最大のリスク」であり、政府の「アキレス腱(けん)」となっていることを強く自覚することだ。決して焦らず、専門家の意見を聞き、慎重に行動することだ。

 幸いなことに、日本政府の新型コロナウイルスへの対応は、それほど間違ったものではないように思える。今、安倍首相に求められるのは「何もせずに、現状を維持して危機が過ぎ去るのを待つ」という、最も難しい決断をすることではないだろうか。