2020年03月29日 22:18 公開

マディ・サヴェージ(ストックホルム)

欧州に暮らす大部分の人が新型コロナウイルスのアウトブレイク(大流行)に直面し、厳しい外出禁止令に耐えている。こうした中で一国だけ、ふつうに近い日常生活を認めている国がある。

長い冬が終わり、スウェーデンの首都ストックホルムには、屋外で座れるだけの暖かさが戻ってきた。市民はこの気候を思いきり楽しんでいる。

マリアトリエット広場には、ヴァイキングの主神トールの巨大な像がある。その下で大勢の家族連れが、皆してアイスクリームをほおばっている。さらに通りを進むと、若者たちがハッピーアワーのお酒を楽しんでいる。

市内の別の場所では今週、複数のナイトクラブが営業している。しかし、50人以上の集会は29日から禁止だ。

スウェーデンの隣国と比べたらどうだろうか。デンマークでは集会は10人に制限されているし、イギリスではもはや、同居していない人とは会ってはいけないことになっている。

「各自に大きな責任」

スウェーデン国内の通りは、普段よりも目に見えて静かだ。ストックホルムの公共交通機関の運営会社「SL」によると、地下鉄と通勤列車の乗客数は先週、50%減少したという。

世論調査からも、ストックホルム市民のほぼ半数が在宅勤務していることが分かっている。

国から出資を受ける、ストックホルム市内のグローバルビジネス・コミュニティを支援する企業「ストックホルム・ビジネス・リージョン」は、技術に精通した労働力や、以前から柔軟な在宅勤務を促進してきた企業風土のおかげで、ストックホルムの大手企業では在宅率が少なくとも90%上昇すると推計している。

「在宅勤務が可能な企業はそうしていて、うまくいっている」と、同社のスタファン・インヴァルソン最高経営責任者(CEO)は言う。

インヴァルソンCEOのこの言葉は、スウェーデン政府の戦略の核心をついている。公衆衛生当局や政治家たちは今も、厳格な措置を取らずに新型ウイルスの感染拡大を遅らせることを、いまだに望んでいる。

実際、厳格なルールよりも、病気の人や高齢者が家にとどまったり、手を洗ったり、必要のない移動を避けたり、在宅勤務をしたりすることに重点を置いたガイドラインの方が多い。

スウェーデンはこれまでに、約3500人が感染し、105人が死亡している。

「私たちは大人なのだから、大人にふさわしい行動を取る必要がある。パニックやうわさを広めてはいけない」と、 ステファン・ロベーン首相は先週末のテレビ演説で国民に向けて述べた。

「この危機において、1人ぼっちの人は誰もいない。しかし、1人1人に大きな責任がある」

高い信頼

大手世論調査会社「Novus」の全国調査によると、スウェーデン人の大半がロベーン首相のテレビ演説を見て、その内容を支持したという。

スウェーデンでは公的機関への信頼度が高く、それゆえに市民は自分の行動を自ら律し、自主ガイドラインを自発的に順守しているようだと考えられている。

人口動態もまた、スウェーデンの対応において大事な要素かもしれない。地中海諸国では数世代が同居する家庭が多いのに対して、スウェーデンでは過半数が1人暮らしだ。そのため、家族間の感染リスクを軽減できている。

一方で、スウェーデン人は屋外が大好きだ。家に閉じこもる羽目になる規制を避けたいもう1つの理由は、市民の心身の健康を保つためだと当局は説明する。

「我々は新型ウイルスのアウトブレイクによる健康への影響と、この危機による経済への影響の両方を、最小限に抑えなくてはならない」と、ストックホルム商工会議所のアンドレアス・アツィジョルジュCEOは言う。

「この国のビジネス界は、スウェーデン政府とスウェーデン人の対応は、ほかの多くの国の対応より賢明だと、本当にそう思っている」

「歴史が審判する」

しかし、欧州各国が活動を停止するのを目の当たりにして、自分たち独自の対応に疑問を持ち始めているスウェーデン人もいる。

スウェーデンの医科大学、カロリンスカ研究所を拠点に活動する疫学者のエマ・フランス博士は、「この国の人間は政府の助言を聞き入れる傾向があるが、こうした危機的状況で、それが十分なのだろうか」と言う。

フランス博士は、店舗やジムなどの公共の場での他人との接し方について、「もっと明確な指示」が必要だと呼びかけている。

"Nobody really knows what measurements will be the most effective," she says. "I'm quite glad that I'm not the one making these decisions".

ビジネスは通常営業だという人もいれば、苦戦している人もいる。にぎやかなマリアトリエットのバーの角を曲がったところにある、流行に敏感な人気の理髪店「オネスト・アルズ(正直者のアルの店)」では、スタッフの配置や予約をずらすなどして、安全性向上に努めている。しかし、客数は激減している。

オーナーのアル・モシカ氏は、「妻も会社を経営しているので、私たちはかなり自分たちの収入に頼っている。経営状態は悪くて、支払いも残っている。銀行に電話しなくては」と話す。

スウェーデンは戦術を転換し、外出禁止令を実施するはずだとモシカ氏は予測している。そしてスウェーデン政府も、絶対にロックダウンしないとは言っていない。

欧州のどの政治家や科学者の判断がベストだったのか。それはいずれ歴史が審判することだと、フランス博士は話す。

「どの措置が最も効果を発揮するのかは、誰にも全くわからない。(中略)ウイルス対策を決めるのが自分じゃなくて、本当に良かった

(英語記事 Lockdown, what lockdown? Sweden's unusual response to coronavirus