田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授)

 国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の企画展「表現の不自由展・その後」は、公的な文化助成のあり方を再考する機会となった。筆者は名古屋市から依頼を受け、「あいちトリエンナーレ名古屋市あり方・負担金検証委員会」の委員に就いたが、3月27日の第3回会合で報告書をまとめることができた。

 内容は、「あいちトリエンナーレ実行委員会」に対して、名古屋市は留保していた負担金を支出しなくてもやむを得ないとするものだった。また、あいちトリエンナーレへの今後の取り組みについても、名古屋市に対して積極的な提案を盛り込んだ。

 ただ、報告書案の採決は3対2と票が割れた。賛成したのは、元最高裁判事の山本庸幸座長と大東文化大副学長の浅野善治委員、そして筆者だ。反対は美術批評家の田中由紀子委員と、弁護士で元名古屋高裁長官の中込秀樹副座長だった。

 3回にわたる会合でも、意見が完全に二つに割れ、その間を埋めることができなかった。まさに、この問題が招いた社会の分断の縮図を見るようだった。

 同日、同市の河村たかし市長は報告書を尊重する形で、負担金の未払い分約3300万円を支出しないと表明した。報告書案に賛成した委員として当然だが、筆者は市長の判断を全面的に支持する。

 簡単ではあるが、報告書の要旨は次の通りだ。まず、委員会の目的は「名古屋市が負担することが適切な費用の範囲について検討する」とともに、「次年度以降の名古屋市のあいちトリエンナーレへの関わり方について検討する」ものであった。市民からの税金をどのように利用するか、その適切な利用をめぐる問題が大きな焦点だった。そして、主に「表現の不自由展・その後」をめぐる三つの事実を指摘する。

(事実1)予め危機管理上重大な事態の発生が想定されたのにもかかわらず、会長代行(河村たかし市長)には知らされず、運営会議が開かれなかったこと。
(事実2)「表現の不自由展・その後」の中止が、事前に会長代行には知らされず、運営会議が開かれないまま会長(愛知県の大村秀章知事)の独断で決定されたこと。
(事実3)中止された「表現の不自由展・その後」の再開が、事前に会長代行には知らされず、運営会議が開かれないまま会長の独断で決定されたこと。


 詳細は近く名古屋市のホームページ(HP)で公表される報告書を参考にしていただきたい。
企画展「表現の不自由展・その後」を開催した国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」をめぐる2回目の検証委員会。手前右から2人目が筆者=2020年2月14日、名古屋市役所
企画展「表現の不自由展・その後」を開催した国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」をめぐる2回目の検証委員会。手前右から2人目が筆者=2020年2月14日、名古屋市役所
 ところで、名古屋市はあいちトリエンナーレ実行委に負担金を支払うべきという「債務」を負っている、と認識している人たちが一部いる。しかし、この認識は妥当ではない。報告書では、その点でも解釈をきちんと提示している。

 名古屋市は、そもそも実行委員会に対して、既に通知した「あいちトリエンナーレ実行委員会負担金交付決定通知書(以下「交付決定通知書」という。)」に記載した通りに負担金を全額交付すべき債務を負っているか否かを検討する。結論から言うと、交付決定額171,024,000円を全額交付すべき債務はないと考えられる。なぜなら、交付決定通知書に記載した負担金の交付は、実行委員会に対して、3回に分けて各回これだけの金員を支払うつもりであるという意思を一方的に通知したに過ぎないと考えられるからである。