平野和之(経済評論家)

 東京五輪・パラリンピックがおよそ1年延期されることが決まった。ただ、安倍晋三首相が、新型コロナウイルス禍をめぐり「長期戦」を強調した中で、この「1年延期」について懐疑的な人も多い。経済的な打撃が避けられないとはいえ、なんとか中止を免れた東京五輪だが、この未曽有の危機に日本はどう対峙すべきなのか考えたい。

 関西大名誉教授の宮本勝浩氏といえば、スポーツ経済効果測定に定評がある。彼が、東京五輪中止の経済損失は4・5兆円、延期でも6400億円の経済損失が発生すると分析し、先日報じられたが、これには、当初の予定通りの「強引開催」の損失提示がなくイマイチしっくりこない。

 本来は「中止」「延期」「強引開催」という三つの比較があってしかるべきであり、まず、これら3パターンで比較検証してみよう。

 東京都が誘致段階で出した試算は、「コンパクト五輪」で事業予算3千億円、経済効果は10年で3兆円だった。ところが、事業予算が膨れ上がり、10倍に膨れ上がった。

 たしかに、事業予算が3兆円なら3兆円以上の経済効果は見込めるが、3兆円を使って、経済効果が3兆円では意味がない。回収できない予算は、会社でいえば、工場を一つ1千億円で建てて、売上が1千億円で、結局利益ゼロみたいな話だ。

 1千億円を回収しようとすれば、5年なら200億円、10年なら100億円といったリターンを生み出さなければ投資対効果は生まれないし、やる意味がない。

 行政支出は単純に利益で回収する話ではないので、同じ土俵では語れないが、少なくとも事業予算があれば、経済効果は10倍程度必要というのが意思決定のコンセンサスである。

 そして、東京五輪の経済効果を算定し直してみれば32兆円という見方もある。これはどれだけサバ読んでいるのかという額だが、効果の中身は、これらの行政財産が将来生み出すレガシー効果を加味したようだ。とはいえ、本来公共資産はレガシーコスト(負の遺産)を算出するのが基本である。
※画像はイメージ(ゲッティイメージズ)
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 現実は維持費もかかる。新規の公共投資が、高齢化社会や人口減少社会でどのように推移するだろうか。そもそも行政には減価償却という概念も、将来の維持更新計画という概念もない。つまり、経済効果というもの自体、さじ加減でいくらでも増えるし、減るものでもあり、あてにならない。

 こうした中で、五輪の経済効果は数兆円程度と試算した民間シンクタンクは多かった。