岩崎恵美子(元厚生労働省仙台検疫所長)

 2019年11月に中国・湖北省の武漢市で発生した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、瞬く間に世界中に拡散し、3月11日には世界保健機関(WHO)がパンデミック(世界的大流行)を宣言するに至った。その後も流行はその勢いを維持したままで、まだ明確な終息の気配は見えていない。わが国でも、4月7日に緊急事態宣言が発令され、国民の生活に大きな制限や支障が生じ続けている。

 ところで、実は私たちは、過去コロナウイルスによる重篤な感染症の流行を経験してきている。諸外国で大きな被害を出した重症急性呼吸器症候群(SARS)や中東呼吸器症候群(MERS)などが記憶にあるが、それ以外のコロナウイルスの多くは、一般的な風邪(かぜ)の原因となっているウイルスである。

 今回、新型コロナ感染症の恐ろしさを知るきっかけとなったのは、報道で流れた武漢での流行を制圧するための行動監視や都市封鎖という厳しい措置であった。

 その後まもなく、春節の休暇に日本を訪れた中国人旅行者によって持ち込まれたと思われるウイルスが、来日した人々の観光に関わった方々、タクシーやバスの運転手、ガイドなどに拡がり、それらの人々を核にどんどん感染者は増え続けた。

 さらに日本発着の大型クルーズ船内に、途中寄港地の香港で下船した乗客の新型コロナウイルス感染が判明した。横浜入港時、乗客の大半は下船予定の日本人であり、水際での感染症の流入を阻止することを担う横浜検疫所の検疫官が船内に乗り込み、乗船者の健康状態のチェック(体温測定、症状の確認)を実施する臨船検疫が行われた。

 現実には、狭く複雑な構造の船内では厳密に感染者と非感染者を区分するゾーニングの実施は困難を極め、混乱が生じた。最終的には乗客を下船させて、治療・検査・経過観察を収容先の民間施設や公的施設、開院前の大学病院施設などの協力を得て乗り切った。

 国では新型コロナウイルス感染症対策本部が中心となって当たり、それらを支援する専門家チームが用意され、さまざまな施策が展開されたが、私はこの体制について大きな危機感を抱いていた。
クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」内で新型コロナウイルスの陽性反応を示した乗船者を搬送する防護服姿の関係者=2020年2月5日、横浜港(共同通信社ヘリから)
クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」内で新型コロナウイルスの陽性反応を示した乗船者を搬送する防護服姿の関係者=2020年2月5日、横浜港(共同通信社ヘリから)
 というのも、その体制の中には研究者はいても、最前線で直接患者に当たる医師などの医療関係者の姿が見えず、この体制で感染症対策はできるとは思えなかった。

 そんな中で私は、2009年の新型インフルエンザ(H1N1)発生時を思い出していた。当時私は仙台市の副市長として対策にあたっていたが、そのとき、国は各地に発熱外来を作り、そこでトリアージを行い、隔離、収容、治療を実施するよう求めた。