清義明(フリーライター)

 消毒用アルコールの供給が逼迫(ひっぱく)している。

 ショッピングセンターやチェーン店などの店頭に置かれている、据え置き式のアルコールスプレーは、もはやおなじみの光景だ。ところが、この据え置き除菌用のスプレーも、アルコールではなく他の代替の消毒液になりつつある。在庫が払底してきているのだろう、アルコールのように両手でもみしだいても乾燥しないので、お使いになれば分かるはずだ。

 大手ドラッグストアのいくつかに聞いてみると、マスクも足りないが消毒用アルコールはさらに入荷は少ないとのことだ。しばらくは、一般消費者にアルコール製品が行き渡るのは難しいのかもしれない。

 さらに悪いことに、医療施設でも入手が日ごとに厳しくなってきているようなのだ。

 ある医師は「在庫はあるんですが、次にいつ入荷するかは分からない状況です。業者さんも手に入れるのは厳しいと言っています」と嘆く。医療用品の卸をしている業者も「大きな病院はともかく、個人医院は不足し始めている」と事情を打ち明けてくれた。

 ドラッグストアなどでよく見かける消毒用エタノールの製造元大手、健栄製薬に話を聞くと、新型コロナウイルスの感染拡大が中国で始まった段階で増産を始め、今では通常時の3~4倍の出荷をしているとのことだ。それでもまだ間に合わないという。
 
 厨房(ちゅうぼう)用の除菌アルコールで有名な「パストリーゼ77」の製造元、ドーバー酒造にも話を聞いた。こちらも24時間態勢で通常時の約3倍の量を生産しているにもかかわらず、まったく注文に追いついていないとのことだ。

 同社営業推進課の担当者は、言いにくそうにこの製品がネットで高額で転売されていることも教えてくれた。フリーマーケットの大手サイトをチェックしてみると、転売価格は定価の4倍にもなっている。マスクはいち早く転売が禁止されたが、除菌アルコールの転売はそのまま続いているのである。

 昨今は医療向けマスクの供給が問題になっているが、消毒用アルコールも無くなってしまえば、それこそ「医療崩壊」である。また、厚生労働省も新型コロナウイルスの予防には手洗いが必須とし、それができなければアルコール消毒を一般市民に求めている。これはマスク以上に問題なのではないだろうか。

 日本国内のアルコール製造事業を管轄する、経済産業省の製造産業局素材産業課にこの件について聞くと「もちろん品不足は把握している」とのことだ。

 消毒用アルコールは厚労省の管轄であると断ったうえで、新型コロナウイルスへの対応として令和2年度補正予算に「マスク・アルコール消毒液等生産設備導入補助事業」の項目が盛り込まれていることを説明してくれた。

 マスクやアルコール消毒液の生産設備の導入に、中小企業へ補助金を出し、設備導入を促進しようとするものだ。生産設備導入にあたり、中小企業で75%、大企業でも66%の補助金が支払われるもので、かなり大がかりのものといえる。
新型肺炎の影響でマスクやアルコール消毒の入荷がないことを伝える張り紙=2020年2月28日、相模原市(寺河内美奈撮影)
新型肺炎の影響でマスクやアルコール消毒の入荷がないことを伝える張り紙=2020年2月28日、相模原市(寺河内美奈撮影)
 しかし、新型コロナウイルスの騒動が始まってから間もなく3カ月目を迎えようとしている現在、マスクも消毒用アルコールも市場に出回らないばかりか、さらに店頭の商品は払底している。これから設備導入といっても、それはいつになるのか。そして実際に増産となり、医療従事者や一般消費者に行き渡るようになるものなのか。

 マスクの場合、メーカーも設備拡充に二の足を踏んでいるという話もある。

 もし、マスクの生産のための設備投資をしたとしても、今や新型コロナウイルスのパンデミックが終息しつつある中国で、再び生産が始まれば価格競争で対抗できるはずもない。そうすると、設備や製造ラインは途端に余剰のものとなる。この需要もいつまで続くかは分からない。そのために投資や人的リソースを投下するのはギャンブルだろう。これと同じことが消毒用アルコールにも言えるのではないか。