2020年04月21日 15:16 公開

新型コロナウイルスの感染被害が続くイギリスで20日、従業員を雇い続ける事業主を対象に賃金の8割を政府が肩代わりする、雇用維持制度の受け付けが始まった。初日に申請した事業主の数は14万件を超えた。

この雇用維持制度は、イギリス国内の企業が従業員の雇用を維持した場合、休暇扱いになっている従業員の給与の8割、1人あたり月額最大2500ポンド(税込、約33万円)を政府が補助するというもの。

首相官邸での定例会見で、リシ・スーナク財務相は、労働者100万人以上の賃金の支払いを補助することになると述べた。

しかし、ロックダウン(都市封鎖)の影響で「一時帰休」扱いになる労働者の人数は、100万人をはるかに超える見通し。

英財務省によると、今回の制度では、1時間に最大45万件の申請を処理できる。雇用主は申請から6営業日以内に補助金を受け取るという。

スーナク財務相は、一時帰休扱いにならなければ失職したはずの人たちを、この制度が助けることになると述べた。

雇用維持制度の申請受け付けは20日午前8時に開始した。

開始後30分以内で約6万7000件の申請があったと、英歳入税関庁(HMRC)のジム・ハーラ長官はBBCラジオ4の番組「トゥデイ」に話した。

「今月の主な給与支給日は30日なので、雇用主は今日や明日、あるいは水曜日のどの時間帯でも申請できる。補助金を4月30日までに会社の口座に確保し、給与資金を用意する余裕はある」

<関連記事>

英小企業連盟(FSB)のマイク・チェリー氏は、雇用主の多くが申請時の情報の提出が簡単だと気付き、多くの申請が殺到したが、雇用維持制度は「持ちこたえた」と述べた。

「もちろんまだ初日にすぎない。今月末に雇用主の口座に補助金が振り込まれることが、この制度の真の成功の証になるだろう」

コスト増加

ドミニク・ラーブ首相代行が16日、ロックダウンを「少なくとも」あと3週間延長すると発表したことを受け、スーナク財務相は17日、雇用維持制度の期間を6月末まで延長すると表明した。

HMRCのハーラ氏は、この制度維持にいくらかかるのか、予想額の言及を控えた。

英予算責任局(OBR)は先週、420億ポンド(約5兆6000億円)規模になると推計しているが、これは英政府が制度期間の延長を発表する前のもの。

ハーラ氏は、政府はこの制度に必要な資金を用意できるはずだと述べた。

「予想される最大の申請の数に対応するため、HMRCのITシステムを調整した。申請件数が200万件をはるかに上回る累進源泉課税(PAYE)制度にも対応しているので、システムは全ての申請に対応できる」

英商工会議所(BCC)のアダム・マーシャル会頭は、「4月の給与支給日が近づく中、申請手続きがスムーズに処理され、できるだけ早く補助金が支払われることが不可欠だ」と述べた。

さらに、「少しでも遅れがあれば、多くの企業が直面する財務危機が悪化し、雇用と事業を脅かしかねない」と付け加えた。

当初予測を上回る申請数

英シンクタンク「レゾリューション財団」の最新調査によると、雇用維持制度の申請数は当初の予測を上回っている。また、今後数週間で約800万人の労働者が一時帰休になる可能性があるという。

この調査は、接客業や小売業などの低賃金分野の労働者が最も影響を受けており、半数近くの労働者が有給休暇を取得することになると予測している。

「レゾリューション財団」エコノミストのダニエル・トムリンソン氏は、「政府による雇用維持制度を歓迎する。今後数カ月のイギリスが、高い失業率を経験するのか、それとも大恐慌時代に匹敵する壊滅的な失業の長期化に至るのか、その間で防波堤になるのがこの制度だ」

「この制度は、労働者の半数近くがもはや働けずにいる接客業や小売業のような大規模で低賃金の分野では特に必要不可欠だ」

ファストフードのケンタッキーフライドチキンやマクドナルドに加え、全国的な服飾大手チェーンなどは、ロックダウンによって休業状態にあるため、従業員を一時帰休にしている。

「必要な場所に、迅速に支援を」

英産業連盟(CBI)首席エコノミストのレイン・ニュートン=スミス氏は、企業向けオンライン申請サービスの開始を歓迎した。

「雇用維持制度を開始することで、全国の雇用や生活水準が守られ、何万もの企業や数百人もの人々に大きな違いをもたらすだろう。(中略)支援が最も必要とされている場所に確実に、迅速に、支援が届くようにするのが何より重要だ」

<解説>滑り出しは順調だが、疑問は残る――ダルシニ・デイヴィッド、BBC世界貿易担当編集委員

問い合わせの電話が通じ、オンライン申請が受領されるなど、いまのところ雇用維持制度には期待が持てる。しかし、支給日に補助金を用意するための大仕事は始まったばかりだ。

企業側が架空の従業員の分を不正に申請していないかなど、チェックが行われるというが、HMRCトップは、すべての不正行為は突き止められないだろうと認めている。スピードとコンプライアンスの折り合いをつけなければならないからだ。

制度を立案したスーナク財務相は、順調な滑り出しに一安心しているはずだ。

しかし、この制度では2月28日以前に仕事を始めた人たちが対象となるが、それ以降に仕事を始めた人たちはどうなるのだろうか。

加えて、スーナク氏はすでに制度期間を延長している。再び延長せざるを得なくなった場合は、どういう追加コストが必要になるのか。デンマークのように、タックスヘイブン(租税回避地)に法人登記している企業は支援しないという方法も検討するのだろうか。

あまりに色々なことがあったので、スーナク氏の財務相就任からまだ3カ月もたっていないのを、忘れがちだ。しかし、まだ疑問は複数残っている。


新型コロナウイルス特集

感染対策

在宅勤務・隔離生活

(英語記事 More than 140,000 firms claim wage bill help