2020年04月22日 12:55 公開

新型コロナウイルスの感染拡大防止策をめぐり、一部の国や地域で緩和の動きが見られる中、感染拡大抑制の成功例としてニュージーランドに、そしてジャシンダ・アーダーン首相のリーダーシップに世界中から注目が集まっている。

ニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相は20日、新型コロナウイルスの市中感染を封じ込めるという「ほとんどの国ができなかったことを達成した」と述べ、28日からロックダウン(都市封鎖)を段階的に緩和すると発表した。

同国のロックダウンには、制限内容に応じたレベル分けがある。現在は最も厳格な「警戒レベル4」(「不可欠な移動」以外は自宅待機など)で、これを「レベル3」に引き下げるという。

段階的に移行、移動規制なども継続

「レベル3」では、学校は「受け入れ人数を制限」して再開される。事業も再開できるが、「顧客との物理的な接触」は認められない。

また、10人までの集会は、結婚式や葬儀、タンギハンガ(マオリ族の葬儀)に限り許可される。

個人の移動も引き続き制限され、仕事や学校、食料品や必需品の購入、運動以外は自宅待機となる。通勤などで公共交通機関を利用する場合、他人と2メートル離れなければならない。

3月19日から始まった外国人旅行客に対する国境閉鎖についても、方針は変わっていない。

「レベル3」の期間は少なくとも2週間続き、5月11日に新たな決定が下されることとなる。

アーダーン氏は、時期尚早な緩和開始で、これまでの犠牲を無駄にしてはならないとしている。

ニュージーランド政府の新型ウイルス対応を批判する声も一部にはある。しかし、政府が市民に示してきた共感力や明確で分かりやすい説明、そしてあくまでも科学を重視し信頼するというその姿勢は、模範的な政府対応だったと、BBCのシャイマア・ハリル記者は書く。

一晩で方針転換

今年3月、ニュージーランドはモスク(イスラム教礼拝所)銃撃事件からまもなく1周年を迎えようとしていた。13日に追悼式典が予定される中、世界保健機関(WHO)は同11日、新型ウイルスの感染拡大はパンデミック(世界的大流行)だと宣言した。

BBCのハリル記者は当時、WHOによるパンデミック宣言直後の大規模集会に不安はないのか、アーダーン首相に尋ねた。首相は、既存の科学的助言に基づき、懸念はないと答えていた。

ところが、事態は一夜にして一変した。アーダーン氏は追悼式典を中止しただけでなく、全世界からの入国者に対して、入国後14日間の自主隔離を実施すると発表した。

これは世界的に最も早期で、最も厳格な自主隔離措置の1つだった。そしてここから、1週間後の完全なロックダウンに至った。

「我々は厳しく、そしてこの早い段階から対応する。(中略)国内の感染者数は102人だけだが、イタリアもかつてはそうだった」と、アーダーン氏は当時、市民に語った。

ロックダウン開始から2週間で、ニュージーランドでは新しく確認される感染者の数が着実に減少した。1人の感染者が他の人に移す割合は、1人未満だったと確認されている。

米ジョンズ・ホプキンス大学の集計によると(日本時間22日午前現在)、人口約490万人のニュージーランドで確認された感染者は1451人、死者は14人となっている。

ニュージーランドの「成功」の鍵は

言うまでもなくニュージーランドは小さい国で、これまでに1万以上が死亡するなど甚大な被害が出たニューヨーク市(人口約840万人)よりも人口が少ない。島国なので国境を封鎖するのも簡単だ。こういった条件がすべて、新型ウイルスの流行発生時に有利に働いた。

しかし、人口比の感染率が特に低い国の1つとなった主な要因は、政府からのメッセージが明確だったと評価されている。

「COVID-19(新型ウイルスによる感染症)との戦争」を宣言した諸外国とは異なり、ニュージーランド政府は何よりも「COVID-19に対して団結」するよう市民に訴えた。アーダーン首相は、ニュージーランドのことを繰り返し「500万人のチーム」と呼んでいる。

新型ウイルス対策についてニュージーランド政府に助言した、オタゴ大学公衆衛生学部のマイケル・ベイカー教授は、「ジャシンダ(アーダーン首相)はリーダーとして、コミュニケーション能力が実に見事で、共感力も優れている」と評価する。

「それに、彼女の発言は理にかなっていたし、理にかなっているという部分を市民は本当に信頼したのだと思う。政府の指示の順守率は高かった」

ベイカー教授は、効果的なパンデミック対応には、「科学と指導力が一体になる必要がある」と指摘する。

科学的知見は、日々の記者会見でアーダーン氏の隣に立っている保健省のアシュリー・ブルームフィールド長官が提供してきた。

「ブルームフィールド氏は発生当初から、COVID-19をめぐる多くの複雑な健康問題を慎重かつ冷静に伝え、政府決定の地固めをしてきた」と、ラジオ・ニュージーランドのサラ・ロブソン記者は言う。

「ブルームフィールド氏は、感染者数の増加について今後の展望を明確に伝えていたので、アーダーン首相がロックダウン開始を宣言した時、市民はその理由を理解していた」

経済より健康を優先

新型ウイルスの最新研究について、政府に助言し定例会見にも参加してきたオークランド大学の准教授、スージー・ワイルズ博士は、アーダーン氏や政府が明確に市民の健康を最優先してきたことが、COVID-19対応の鍵だったと言う。

経済への影響を恐れて行動制限を遅らせたほかの国は現在、はるかに困難な時期に突入している。

ワイルズ氏は、「住民が死んでしまったとか、どんどん死んでしまうのは言うまでもなく、経済にとって打撃のはずだ」と述べた。

「強く、優しく」

アーダーン首相は、ロックダウンの詳細や今後の感染者数の見通しについて市民に伝える際、優しさという面にも焦点を当ててきた。

首相の公の場での発言のほとんどは、同じメッセージで締めくくられている。「強く、そしてお互いに優しく」と。

アーダーン氏はカジュアルな服装で定期的にフェイスブックに登場し、常に笑顔で、私生活の一部を共有している。一方で、市民からの質問に答える際には、決して事態を過小評価しない。

ニュージーランド国内では、そうしたアーダーン氏の振る舞いや揺るがない姿勢が称賛されている。

「優しいだけでなく、きっぱりと決断する。おかげで私たちは、何をしてよくて、何がだめないのか、はっきり分かる」と、オークランドを拠点に活動する保険監督官のトマス・ウェストン氏はBBCに述べた。

これに対してアーダーン首相は、医療関係者の働きや、市民がロックダウンを支持してくれたことが成功に結びついたと称賛している。

「ニュージーランド人は自分たちの力を証明してくれた。最も素晴らしい方法で」

アーダーン氏は最近、ニュージーランド国民への影響を考慮して、自分と閣僚、そして公共サービスの責任者について、今後6カ月間20%減給すると発表した。

早く対応したデンマークも制限緩和

先月12日から経済活動を制限していたデンマークでは4月15日、小学校と保育園が再開した。

また、政府は同17日、理美容店やタトゥー店などの営業を同20日から認めると発表した。

隣国スウェーデンが厳格な措置を避けて乗り切ろうとするのに対して、デンマークは早急に新型ウイルス対抗措置を講じていた。

デンマークは欧州諸国でいち早くロックダウンを宣言し、いち早く段階的な緩和を開始ししている国の1つ。

美容院やタトゥー店が再開

デンマーク政府の発表を受け、再開対象の店舗には予約が殺到した。

コペンハーゲン中心部の理髪店「フィルズ・バーバー」のオーナー、フィル・オランデルさんは、「めちゃくちゃ忙しい。今後2週間は予約でいっぱいで」と話す。

問い合わせが相次いだことで、オランデルさんの予約システムは一時パンクしてしまったという。

別の美容師によると、今後3週間は予約で埋まっていて、需要に応えるために営業時間を延長して対応するつもりだという。

今回デンマークで再開が許可されたのは、理美容店やタトゥー店、歯科、メガネ店、自動車運転の教習など。各業種は、新たな保健ガイドラインに従わなければならない。

オランデルさんは、「お客が入れ替わるごとにきれいにしなければならない。(中略)椅子や道具、ドアノブからクレジットカードの読み取り機に至るまで、あらゆるものを消毒している。余分な仕事が増えている」と述べた。

待合スペースにはさらに空間を確保するため、雑誌も置かなくなった。

利用客の1人は、感染対策の制限が緩和されたことに満足しているという。「政府は新型ウイルスを制御していると思うし、政府を信頼しているので」。

ほかの制限は少なくとも5月10日まで継続される。国境は封鎖され、集会は10人までに制限されている。

イタリアでも徐々に

こうしたロックダウン緩和の動きは、複数の欧州諸国でみられる。

欧州の感染拡大の震央だったイタリアでは20日、新型コロナウイルスによる感染症(COVID-19)を現時点で発症している人の数が、アウトブレイク(大流行)が始まって以来、初めて減少した。

21日にはジュゼッペ・コンテ首相が、3月から実施していた外出制限を5月4日から段階的に緩和すると発表した。

スペイン政府もこの日、子供たちの外出を認めた。

豪ビーチでの運動が一部解禁

ロックダウンが続くオーストラリア・シドニーでは、世界的に有名なボンダイビーチを含むほとんどのビーチが閉鎖されている。

しかし主要都市シドニーでは20日、クージービーチ、マルブラビーチ、クロヴェリービーチの3カ所で、砂浜での運動が解禁された。社会的距離は保たなければならない。

地元当局は、ビーチ再開は市民の心の健康維持に大きく貢献するだろうとしている。

アメリカ南部でも規制緩和の動き

アメリカでは、南部の複数の州が新型ウイルス防止に関連した規制緩和に向けて動いている。

サウスカロライナ州はデパートを含む一部の小売店の営業再開を認めている。一方、テネシー州ではほとんどの事業が5月1日に再開する。

ジョージア州知事は、「社会的距離」ガイドライン順守を条件に、ジムや美容室、タトゥー店を24日から、レストランと映画館を27日から再開できるとしている。

これら3州の知事はいずれも共和党員。

共和党を率いるドナルド・トランプ米大統領は、できるだけ早くアメリカの経済活動を再開したい方針を強調しており、州政府による厳しい行動制限に一部の住民が抗議している州については、その州を「解放しろ」とツイートするなど、抗議する住民を支持している。

南部3州の知事たちは、社会的距離の措置は今後も継続する方針を示している。

移民受け入れを一時停止へ

こうした中、トランプ大統領は20日、米国への移民の受け入れを一時的に停止する大統領令に署名するとツイートした。

トランプ氏は、「目に見えない敵(新型ウイルス)からの攻撃と、我々の素晴らしい米市民の雇用を守る必要性を考慮し」て判断したと説明した。

続いて21日には、永住権(グリーンカード)の取得希望者について、60日間手続きを一時停止すると発表した。

トランプ氏をめぐっては、移民取り締まりに新型ウイルスのパンデミックを利用しているとの批判が上がっている。


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