重村智計(東京通信大教授)

 北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の動静が4月12日から途絶えた。「植物状態」から「地方滞在」まで、未確認情報が飛び交っている。

 米国のトランプ大統領は重篤報道を「不正確でフェイク・ニュース」と否定した。韓国大統領府は「近く姿を見せる」と強調するが、「健康回復」とは言っていない。

 米韓の指導者は今後のため、復帰に必死の期待を語るように、まさに「金正恩頼み」の状況だ。一方、中国当局者と医療関係者は、最悪の事態は政治的な「死」だと述べた。

 確認された事実が何だったか、おさらいしておこう。金委員長は、2日遅れの4月12日に開かれた国会に当たる最高人民会議を欠席した。

 さらに、15日の金日成(キム・イルソン)主席の生誕記念日「太陽節」に、金主席を安置する錦繍山(クムスサン)太陽宮殿に参拝しなかった。北の最大の祝日に、欠席は絶対ありえない。健康不安説が生まれたのは、この欠席からだった。

 トランプ大統領は18日に、金委員長から書簡を受け取ったと述べた。だが、12日に手術を受けていた金委員長は、この時点で書簡を送る状態にはなかった。深刻な事態を示唆するかのように、北朝鮮は19日に「書簡を出していない」と否定した。

 翌20日に、米CNNが「心臓手術で重篤な状態」と報じたことで、衝撃が世界を駆け巡った。トランプ大統領は23日に「報道は正しくないと聞いている。CNNは古い文書を基にしている。フェイク・ニュースだ」と否定し、金委員長の生存を強調した。
2020年4月23日、米ホワイトハウスで記者会見するトランプ大統領(左)とペンス副大統領(AP=共同)
2020年4月23日、米ホワイトハウスで記者会見するトランプ大統領(左)とペンス副大統領(AP=共同)
 23日にロイター通信が、事情に詳しい3人の中国当局者の話として、中国共産党中央対外連絡部(中連部)の高官が、医師団を率いて23日に平壌(ピョンヤン)入りしたと報じた。一方で、米政策研究機関スティムソン・センターの北朝鮮分析サイト「38ノース」は、金委員長の特別列車が21日から東部の元山(ウォンサン)に停車している、と伝えた。

 ロシアのイタル・タス通信は平壌に特派員を駐在させている。その特派員が22日、「平壌のスーパーマーケットに数百人の買い占めの行列が続く」と報じた。記事には「平壌では過去に見られなかった現象だ。生活必需品を備蓄しようとしている」と書かれていた。