吉川圭一(グローバル・イッシューズ総合研究所代表)

 新型コロナウイルス問題は、米国民の医療保険に関する意識の一部を変えたようだ。米大統領選民主党候補であったサンダース氏が叫んだ「全ての人にメディケアを!」という政策に賛同する人が増えたとされる。しかし、彼は予備選撤退を余儀なくされた。なぜだろうか。

 その答えは、米国の医療保険制度について知る必要がある。米国の医療保険制度は非常に複雑である。そこで以下の記述は、あくまで概略であるということを事前に断っておきたい。

 米国の医療保険は、元々は1920年代から徐々に民間の生命保険、損害保険会社が始めた。そのため60年代には、65歳以上の高齢者で医療保険無加入の人が下の世代より多くなり、そこで「メディケア」という公的医療保険制度が導入された。

 これは10年以上米国に合法的に居住していた人が収入の2・9%を払っていれば(雇用されている人は半分を雇用主に払ってもらえる)、65歳以上ないし重度の障害者などになった場合に適用される。

 60日までならほとんど自己負担なしで入院できる(60日以降に関しては、徐々に上がっていき、150日以上は全額である)。追加として約135・5ドルの保険料を毎月払えば、外来診療および今回も問題になったようなワクチンや人工呼吸器などの特殊な治療も年間183ドルまでは無料で、その後は自己負担20%である。ただ、精神科は45%、検査は無料である。

 メディケアは大部分の薬に関しては適用されていなかったので、2003年から追加料金を毎月支払えば、医師から処方される薬剤の費用が補償される。ただし、この部分に関しては、慈善団体や労組、民営医療保険会社なども関係しているため、保険料や補償内容は標準化されていない。だが、平均的な世帯の保険料は月30~50ドルくらいで、そして場合によっては薬剤費の100%が補償されることもある。

 米国在住の私の知人で65歳以上の人が、何度も心臓関係の大手術を受けたが、1回の入院でほとんど費用を払わずに済んでいたようだ。これは北欧諸国並みに充実した医療福祉制度と言えるだろう。導入したジョンソン大統領が「偉大な社会」をスローガンにしたのも分かる気がする(他に彼は都市のインフラ整備など、後のオバマ政権のモデルとなった部分が多い)。

 では、65歳未満で重度の障害者でもない低所得者はどうするのか。そのような(オバマケアができてからは米国政府が定める貧困線を33%まで超えている)人々向けに「メディケイド」という公的医療保険がある。
米ニューヨーク市の病院で、新型コロナウイルスの感染歴の有無を調べる抗体検査を受けるため、列に並ぶ市民ら=2020年4月(上塚真由撮影)
米ニューヨーク市の病院で、新型コロナウイルスの感染歴の有無を調べる抗体検査を受けるため、列に並ぶ市民ら=2020年4月(上塚真由撮影)
 これは連邦政府から補助金を得ているものの、メディケア以上に各州に任されており、不安定である。そのため1990年代までは加入者は米国民の約10%だったが、2000年以降は約20%に増加した。

 それぐらい米国では、2000年以降格差が拡大し、また医療費が高騰していたのである。