そこでオバマケアが登場した。これは65歳未満でメディケイドの対象にならない人でも、例えば既往症があったり、収入不安定などの理由で民営医療保険に入れない人が米国には多かったが、そのような差別を医療保険会社に禁止した。

 また、米国の医療保険は掛金が高いので敢えて入らない人も多いが、そのような人には所得税を2・5%上げるといったペナルティーのようなものがあり、逆に(貧困線を33%以上超えている)低所得者には、民営医療保険に入るための補助金が出る。

 これは一見、よいことのように思われるが、医療福祉に関する公的資金が激増することは言うまでもなく、各州も共和党も強く反発した。また、健康上のリスクの高い人を多く加入させたため、民営医療保険会社の掛金も高騰し、今まで普通に民営医療保険に加入していた人の生活が圧迫されるほどだった。

 自己負担分も増えて医療保険の使い勝手も悪くなった。そこで補助金をもらっても医療保険に入れない人はおろか、オバマケアが成立したおかげで、むしろ無保険状態を望む中流生活者が増えたとも言われている。

 そこでトランプ氏が大統領になってからオバマケアの廃止を試みたが、共和党にも貧しい州選出の議員や、リベラル派の議員もおり、その反対で実現できなかった。そこで共和党は、全国民に保険加入を強制するのは米国憲法違反であるという訴訟を起こしており、また、トランプ氏の税制改革によって少なくとも医療保険に加入しない人への罰金的増税は廃止された。

 いずれにしても以上のような諸事情から、いまだに米国民の10%近い約3千万人の無保険者がいる。オバマケア成立時には無保険者は米国民の約20%だったが、オバマケアによって2020年には5%未満になるはずだった。

 このように無保険者が多く医療保険の使い勝手が悪いという米国の実態が、新型コロナ問題を悪化させた一因ではないか、という考え方は、当然に広まった。そこで先に述べたように、サンダース氏の主張への賛同者も増えたにもかかわらず、なぜ、予備選撤退を余儀なくされたのだろうか。

 彼の主張する「全ての人にメディケアを!」という政策を実現すると、何と36兆ドルもの費用がかかる。そんなカネが、どこにあるのかということだ。費用の問題をクリアできたとして、果たして「全ての人にメディケアを!」政策は、今回の新型コロナ問題のような状況に、効果的に対処できただろうか。
米ニューヨークの民家で、新型コロナウイルスによる重症の高齢男性患者に処置を施す医療従事者ら=2020年4月(ゲッティ=共同)
米ニューヨークの民家で、新型コロナウイルスによる重症の高齢男性患者に処置を施す医療従事者ら=2020年4月(ゲッティ=共同)
 例えば、メディケアは個人の医療費補償なので、それだけのカネを使ったとしても集中治療室や人工呼吸器までは、それほど増やすことはできなかったと思われる。そのような連邦補助金は既に別に存在し、それを使って、そのような設備を整えず、別のインフラ整備などを重視したニューヨーク州のクオモ知事の責任を追及する声が、米国でも徐々に高まっている。彼のトランプ批判は、自らの責任逃れの側面が強い。