そして、設備に関し米国は、実は国民皆保険が実現している欧州諸国よりも、全米では充実し数も多かったのである。その欧州諸国でも多数の人が亡くなったのは、国民皆保険のために多くの人が病院に殺到し、医療崩壊が起きやすかったからであるという考え方もできる。

 ただし、その欧州諸国では、病院の約半分が、営利を考えなくてよい公立病院である(ちなみに日本は約2割)。ところが米国では15%にとどまる。そのため営利の面で非効率的な地方に医療機関が少なく、7700万人の米国民が医療機関不十分な地域に住んでいるという。これも新型コロナが米国で猛威を振るった原因の一つかもしれない。

 その代わり米国では、約1万2千にのぼる地区保健センターがある。これは約1300の非営利団体(NPO)によって経営され、2900万人以上の米国民に、精神科や歯科など、メディケアの対象になり難い分野を含め広く医療サービスを提供している。

 サンダース氏ら民主党左派は、この地区保健センターの拡充にも力を入れてきたが、これには共和党も積極的に協力してきた。政府からの補助金予算が一時的に失効した2018年、105人の共和党議員が延長に賛成している。多くの補助金を得るには、十分に役立っていることを政府に説明しなければならないという、ある種の競争原理が働くからかもしれない。

 一方、バイデン氏は、この地区保健センターへの年間補助金が今は56億ドルであるものを、およそ倍額にすると公約している。また、政府の計画によって医療保険の補償内容の選択肢見直しも公約に盛り込んでいる。これは、保険料が高い代わりに補償が厚いプランと補償が薄い代わりに保険料が安いプランを選ばせ、オバマケアの(経費的な面も含めた)持続可能性を高めるといったことなどだ。

 ただし、これはメディケアの低レートで保険会社に払い戻しを行う可能性がある。人々が安い方のオプションを支持し民間保険を解約すると、医師や病院は彼らの収入が減少し、一部の保険会社はサービスを停止し、他の医療保険会社は、完全に閉鎖するだろう。

 それでも民営医療保険会社の経営に悪影響を与えるのではないかと共和党は反論しているが、いずれにしても米国という国は、やはり競争原理によって活力ある社会を築くことが好きなようだ。バイデン氏の政策を見ていても、それに近いのは理解できる。
テレビ討論会で発言するバイデン前米副大統領=2020年3月、ワシントン(AP=共同)
テレビ討論会で発言するバイデン前米副大統領=2020年3月、ワシントン(AP=共同)
 今回の新型コロナ対策に失敗したのも、米疾病予防管理センター(CDC)、米食品医薬品局(FDA)などが、その官僚主義のために、検査キットや人工呼吸器を、必要なとき、必要な場所に届けられなかったことが原因という意見も米国では多く、ワクチンの開発などを迅速に行なっている民間の医薬品会社への期待の方が大きいようだ。

 ところでサンダース氏の考えていた「米国版国民皆保険」制度は、36兆ドルもの予算を使っても足りないため、この民間の製薬会社や病院などの受け取り分を40%も削減しなければならなくなるという。これでは製薬会社や医師などの士気が上がらず逆効果だという批判も、米国社会では多いのである。