舛添要一(元厚生労働相、前東京都知事)

 5月1日に行われた新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の提言を受けて、安倍晋三首相は緊急事態宣言を5月31日まで全国一律に延長することを決めた。その上で、13の特定警戒都道府県とそれ以外の地域では、対応を変えるという。

 ところで、この決定は科学的・疫学的データに基づいた判断なのであろうか。そもそも、専門家会議の現状把握に問題はないのであろうか。

 新型コロナウイルスの感染拡大に対応するため、イタリア、フランス、スペイン、ドイツなどは非常事態を宣言して都市封鎖(ロックダウン)を行ったが、現在は解除する方向になりつつある。そして、その際には、きちんとした科学的データに基づいて対策を立案している。

 その際に使われる基準の一つが、実効再生産数というものであるが、これは一人の感染者が何人に感染させるかという数字である。専門家会議は、この数字を3月末以来、公表してこなかったので、私は明らかにするように求めてきた。その声が届いたのか、ようやく5月1日の会見で公表された。

 4月1日ごろに1・0を下回った実効再生産数は、4月10日には全国0・7、東京0・5まで下がったという。1・0以下というのは、諸外国では都市封鎖を解除するための基準数字である。

 政府は、4月7日に緊急事態宣言を発出しており、この数字を公表すれば、その対応を正当化する根拠が失われることになる。そこで、情報を隠蔽したのではないかと疑わざるをえないのである。

 専門家会議は「当面は今の対策を維持すべきである」というが、いったい「当面」とはいつまでなのだろうか。感染者が減少しており、実効再生産数も1・0以下になっているというのなら、論理的には緊急事態宣言を解除すべきなのではないか。

 そうしない理由として、医療崩壊を挙げているが、経済活動をここまで大幅に制限しなくても回避する方法はあるはずだ。この点でも、やはり全国の病床数などの正確なデータが提示されていない。これまでも、厚生労働省はさまざまなデータ操作を繰り返してきているので、全面的に信頼することができないのである。

 危機管理の基本は情報公開である。情報を開示せずに、国民に新型コロナウイルスの怖さを強調して、いわば「脅迫」によって政策を強行してはならない。
記者会見する新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の(右から)脇田隆字座長、尾身茂副座長=2020年5月4日、厚労省
記者会見する新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の(右から)脇田隆字座長、尾身茂副座長=2020年5月4日、厚労省
 政府は、感染の有無を確認するPCR検査の事態や実効再生産数、全国病院の空床数といった情報を、隠すか操作するかしているのではないだろうか。これが今の日本の惨状の根本原因である。情報を開示しないまま、緊急事態宣言をさらに延長したことは、マイナスの方が大きくなると危惧する。

 専門家会議の失敗は、PCR検査をほとんど行ってこなかったことにある。この最初のミスが、次々と問題を引き起こし、今日のような「緊急事態」を呼んでいる。