重村智計(東京通信大教授)

 北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長がメーデーの5月1日に姿を見せた。中部順川(スンチョン)のリン酸肥料工場の完工式に出席したと北朝鮮国営メディアが報じたのである。

 20日ぶりの登場に、「死亡説」「重篤説」を主張していた識者は批判に晒された。一方で、「手術もしていない」説や「影武者」説も浮上するなど混乱は続き、疑問もいまだに解消されていない。北朝鮮側が3日に韓国との軍事境界線付近で発砲したのも異常だ。

 北朝鮮と韓国は工作国家である。この前提と認識がないのに、公式発表を完全に信じれば騙される。朝鮮半島問題を取材する記者の常識だ。

 かつて、北朝鮮は「地上の楽園」と自らの国家を宣伝したが、帰国した在日朝鮮人の多くは「地上の地獄」で人生を失った。日本人拉致も「していない」と言い張り続けた。

 34年前、韓国国防省は、北朝鮮が拡声器による政治宣伝放送で「金日成(キム・イルソン)主席死去」を伝えたと発表した。だが1週間後、平壌空港に降り立ったモンゴルのバトムンフ書記長を金主席が出迎えるサプライズを行った。今回の金委員長「登場」も、この事件を思い起こさせる。

 北朝鮮問題に関する報道や情報は、三つのポイントで見極める必要がある。「親北朝鮮の専門家」か、「反北朝鮮の立場」か、「公平な立場の日本人」か、だ。韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権のように、北朝鮮に気を使って「何でもかんでも支持」する立場は信用できない。

 今回、なぜ影武者説が出たのか。金正日(キム・ジョンイル)総書記に影武者がいたからだ。
2020年5月1日、北朝鮮・順川の肥料工場完工式でテープカットを行う金正恩朝鮮労働党委員長。左から2人目は妹の金与正党1副部長(朝鮮中央通信=共同)
2020年5月1日、北朝鮮・順川の肥料工場完工式でテープカットを行う金正恩朝鮮労働党委員長。左から2人目は妹の金与正党1副部長(朝鮮中央通信=共同)
 少なくとも2人の日本人が「金正日の影武者」と面会していた。1人は日朝貿易会の幹部、もう一人はイリュージョニストの引田天功(プリンセス天功)さんだ。情報機関の関係者は、声紋分析の結果から南北首脳会談や日朝首脳会談に現れたのは影武者だと、今も疑う。

 日本では、本物と偽物を見分けることはできなかった。それほど、北朝鮮の影武者技術は優れているのだ。