小倉正男(経済ジャーナリスト)

 緊急事態宣言の延長が決定された。緊急事態宣言が解除となる論拠が何一つ見当たらない。延長は当然というか、むしろ避けられないものだった。

 緊急事態宣言は、4月7日に発令された。3月末~4月初めには、東京都知事、大阪府知事、日本医師会長らから緊急事態宣言発令の要請が相次いだ。異例の事態だ。それでも国は不可解なほど発令に躊躇(ちゅうちょ)を見せた。しかし、発令すると、翌週の4月16日には対象地域を全国に拡大した。

 緊急事態宣言発令により、4月末には感染者は減少に転じて終息に向かうかという期待を抱かせる気配だった。

 しかし、5月に入っても東京都の感染者が100人を大きく超える日が続き、緊急事態宣言は5月31日まで延長されることになった。延長となったことの総括、延長を解除する基準などの道筋は示されなかった。新型コロナウイルス封じ込めの闘いでどの時点にいるのか。どうすれば次のステップに進めるのか。「見える化」はなかった。

 安倍晋三首相が、緊急事態宣言延長の記者会見で使ったキーワードは「新しい生活様式」というものだった。「私たちは新型コロナとの長期戦を覚悟する必要がある」としたうえで、「新型コロナ時代の新たな日常を国民の皆さまとつくり上げていく」、と。

 意味するところは分かりにくいものだったが、その眼目は「新型コロナを前提に…」という「新しい生活様式」の提示にあった。新型コロナウイルスの封じ込めによる終息を目指したが、それは実現できていない。いわば、その現実をのみ込んで、新型コロナウイルスとある程度の共存を前提とする「新しい生活様式」で経済活動の再開を目指そうというメッセージにほかならなかった。

 4月には、収入大幅減世帯に30万円の支給案が打ち出され、その後に国民1人当たり10万円支給に変更された。その時点ですでに「逐次投入」「小出し」という議論があった。

 今回は新型コロナウイルスという存在を前提として闘いながら、経済活動再開を実行するということになる。なし崩しで「二正面作戦」に移行したようなものである。新型コロナウイルスとの闘いでいえば、戦略を転換・変更したことに等しい。重要な転換と思われるが、その判断のベースになる総括のようなものはなかった。
新型コロナウイルス感染症対策本部で緊急事態宣言の延長を表明する安倍晋三首相(手前から2人目)=2020年5月4日、首相官邸(春名中撮影)
新型コロナウイルス感染症対策本部で緊急事態宣言の延長を表明する安倍晋三首相(手前から2人目)=2020年5月4日、首相官邸(春名中撮影)
 「二正面作戦」は本来的には戦力に余裕のある者しか使えない戦法だ。二兎を追うわけだから、一兎も得ずという可能性がある。今川義元の桶狭間では、織田信長の尾張攻略なのか、上洛なのか、曖昧(あいまい)な戦略目標が敗因とされている。ミッドウェー作戦では、アメリカ空母殲滅(せんめつ)なのか、ミッドウェー島攻略なのか、これも曖昧さが敗因となっている。

 このように「二正面作戦」はリスクをはらんでいる。むしろ基本的には採用してはならない闘い方だ。戦略・戦術の手順が曖昧になる。なし崩しで「二正面作戦」に踏み切って、新型コロナウイルスの第2波などのぶり返しで想定を超える長期戦を強いられれば、時間のみならずカネ(税金)をやたらと食うことになりかねない。