2020年05月12日 17:42 公開

フランシス・マオ、BBCニュース

新型コロナウイルスの影響で、世界各地が何らかのロックダウン(都市封鎖)状態にある。規制に従わない人を見かけたら、あなたは通報するだろうか? 通報は市民の義務だろうか、それとも隣人に対するスパイ行為だろうか? 何が両者を区別するのだろうか?

ジェニーさんとヴェロニカさんは、近所のバーが営業していることに気がついた。

禁酒法時代のもぐりの酒場のように、新型ウイルスによるロックダウンのさなか、裏口からこっそり客を入れていた。

米シカゴ市の規則に従わない酒飲みたちを、彼女たちは快く思わなかった。シカゴはアメリカでも最大規模の新型ウイルス流行に見舞われている。

だが、市の当局者が自宅にやってくると、ジェニーさんたちは何も言わないことにした。

「彼は保安官みたいに、大きいピカピカの銀色の星形バッジをつけていました」とジェニーさんは言う。「密告することもできましたが、しないことにしました」。

世界中の大勢が自宅待機の命令に従っている。そして、同居仲間のジェニーさんやヴェロニカさんのように大勢が、ルールを守らない人をいつ通報するかで悩んでいる。通報は市民の義務なのか、それとも他人のことは放っておけばいいのか。

多くの国や都市が非常事態法を成立させ、ロックダウン違反を、罰金刑や禁錮刑に相当する犯罪と定めている。情報収集を目的に、ホットラインを開設したところもある。

オーストラリア・ヴィクトリア州では、テレビゲームをしようと集まったグループが警察に通報された。「違法な」ディナーパーティーの招待客たちは罰金を払わされた。


さらに同国ニューサウスウェールズ州で感染が広がるなか、ビーチが混雑すると、グラディス・ベレジクリアン州首相は州民に、ロックダウン違反者を通報するよう強く呼びかけた。

その翌週、警察には5000件以上の電話があった。

ただ、間違いも発生した。あるカップルがフェイスブックに投稿した休日の写真が通報され、警察がカップルの自宅に出向いた。しかし、問題の写真は1年以上前のものだった。

個人の自由より集団の責任を重んじる法律で知られるシンガポールでは、歩道のひび割れなどの報告に使われてきた公的機関のアプリが、外を出歩く人についての情報受付用にアップデートされた。

すると、2日間で700人もの人から通報があった。政府は国民に、実際に目撃したことだけを連絡するよう求めるほどだった。

公的ホットラインのほか、オンラインの「恥をかかせるフォーラム」にも何千もの人が関わっている。シンガポール最大のフェイスブックの「COVIDIOT」グループは、参加者が2万6000人を超えている(COVIDIOT はCOVIDと、まぬけを意味するIDIOTを合わせた語)。そこには、違反現場だという粗い画像があふれている(たいていマンションのバルコニーなど離れた場所から撮影されている)。


他人のことを通報するのはふつう?

「密告」は正しいことなのだろうか? 規制の制限を勝手に拡大解釈する人がいた場合、通報するのとしないのとでは、道徳的にはどちらが正しいのか。

スーパーや公園など、日常生活で誰もがこの問題に直面していると、豪シドニー大学の道徳哲学者ハナ・ティアニー博士は言う。

「通報したいという衝動はよく理解できます。特に今の状況では」とティアニー博士は話す。「ワクチンか治療法ができるまで、安全を確保する方法は社会的距離しかないので」。

「社会的距離を守らない人はたとえほんのわずかだとしても、その人が他のみんなの努力を損なうことになるのです」

人は自分が責任を果たしているのに他の人は果たしていないと感じるとき、極度にいら立たしく感じると、ティアニー氏は述べる。


シンガポール国立大学で心理学を研究するミンツェン・ホウ氏と同僚のリレ・ジア准教授は、何が友人や家族の犯罪を通報させるのかについて研究してきた。

ホウ氏たちによると、コミュニティーとしての強力な倫理規範が、各自の判断に影響していることが明らかになった。

ジア准教授は言う。「自宅で隔離状態に退屈し、誰かを密告して困らせてやろうと思う卑劣な人ばかりではありません」。

「通報する人の大多数は、集団のために正しいことをしたいと思っている人たちなんです」

先ほどのオーストラリアのカップルの話から分かるとおり、人は全体像が分からない時ほど他者を非難しがちだ。シカゴのジェニーさんとヴェロニカさんが通報しないことにしたのも、部分的にはそれが理由だった。実際に何が起きているのか、確信が持てなかったからだ。

ロックダウンで他人を通報するのが正しいのか、間違っているのか、その境目があいまいなことも、意図しない影響を住民と当局者の双方に与えてきた可能性があると、倫理哲学者ハナ・ティアニー博士は話す。

米ニューヨークから豪シドニーに至るまで、罰金刑は貧困地区に偏っていることを、犯罪統計は示している。

「警察が意のままにできるこの種の制度では、弱者や社会からのけ者扱いされている人に大きな影響が及ぶことを懸念しています」とティアニー氏は言う。


どういう行動がどこまで許容されるのかがあいまいなため、イギリスでも激しい議論を生んできた。警察は違反を通報するよう求めている。しかし、ロックダウンに関する法律にはグレーの領域がある。

さらに、イギリスの警察活動は「同意による警察活動」という法的概念に基づいていることもある。警察が逮捕や拘束という特権を持っているのは、国民から代わりにそうすることを望まれているためだ、という概念だ。

田園や森林などを散策していいのか何週間も議論した末(地方のコミュニティーには散策をやめるよう要求するところもあった)、警察署長たちは、自然の中を散策するために短い距離を車で移動することは犯罪ではないと明言した。

住民に相互通報を促す政策は、どれだけ効果があるのだろうか? 特に、集団の団結を奨励するメッセージが広く発信されている現在においてはどうなのか?

北米の新型ウイルス流行の中心地であるニューヨーク市では、通報用ホットラインは開設から数日でパンク状態になった。だが、苦情よりもいたずら電話や偽の情報が多かった。

当局にとって、謙虚さと社会的な動機付けの間でうまくメッセージを発信することはいつも難しいと、ティアニー氏は言う。

「規則に違反した人を罰するのは、順守を実現する方法の1つでしかありません。そしてそれは、唯一の手持ちの方法であるべきではありません」


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