リングダール裕子(ベルゲン大常勤講師)

  ノルウェーとスウェーデンは同じスカンジナビア半島にある国家で、言語や文化もよく似ている。特に、話し言葉はそれほど難なく理解し合えるし、対岸に位置にするデンマークを含め、お互いを兄弟と呼ぶほどである。

 そんな両国が、今回の新型コロナウイルスに関する政策で全く対照的な方針を打ち出している。しかも、スウェーデンの「緩やかな政策」については、世界各国から批判が相次いでいる。

 筆者の住むノルウェーでは、3月中旬に全国の小中高を休校とし、デジタルによる授業に切り替えた。大学も全ての授業をデジタル化し、外国への留学も一時停止になった。

 屋内外のさまざまな活動も中止となり、ノルウェー人の多くが郊外などに所有しているキャビン(山小屋)への宿泊も、住民登録している市町村以外では禁止になり、6人以上の集会を禁じた。一般の商店や飲食店をはじめ、物理療法施設や美容室など多くの商業活動が一時休業を余儀なくされ、国中で大きな経済的打撃を受けるようになった。

 そのため、国家保証局に失業手当を申請する企業や個人事業主のほとんどが、2メートルのソーシャルディスタンス(社会的距離)を設定するように、政府から要請された。ノルウェーでは政府の要請に従わない場合、2万クローネ(約21万円)の罰金が科されるが、一部の医療専門家はさらに厳しい取り組みをすべきだとまで言っている。それでも、多くの一般人は、感染を防ぐために現状の厳しい政策は仕方ないと考え、ほとんどの人が政府の要請に従っている。

 ところがスウェーデンでは、全く異なる独自政策を採用した。小中高の授業は校舎で行われ、飲食店なども通常通りの営業で、サッカーなど室内外の運動施設も閉鎖されることはなかった。

 規制も緩やかで、禁止ではなく、あくまで「勧め」となっている。70歳以上の高齢者や持病のある人には、自宅待機と他の人との交流を避けるように求めるにとどまっている。

 「ここではカフェやバブなどで全く自由に人と交流し、ハグやキスをして、他の人のグラスから飲んだり、大声で唾を飛ばしながら会話をしている。病院では医療関係者が感染をあまり厭(いと)わずに行動したりしている。これでは感染者や死亡者が増えるのは当たり前だ」。スウェーデンの緩い対応策に、ノルウェー人記者が呆れ顔でこのようにレポートしたほどだ。
スウェーデンの首都ストックホルムのレストランで楽しむ人たち=2020年4月20日(AP=共同)
スウェーデンの首都ストックホルムのレストランで楽しむ人たち=2020年4月20日(AP=共同)
 ノルウェーと隣接している地域には、普段多くのノルウェー人が安価な食物や商品を求めて訪れるが、現時点では一時的に国境閉鎖されている。5月に入って、スウェーデン側は、ノルウェーが国境を開いて、以前のように多くのノルウェー人が買い物に訪れることを望んでいるが、ノルウェー側は懐疑的である。

 スウェーデン政府の新型コロナ政策に関する公でのディベートはないが、スウェーデン人の7割超がもっと厳しい対策を望んでおり、ロックダウン(都市封鎖)を望んでいる人も約4割に上る。何よりも毎日平均して何十人も新型コロナによる死亡者が出ていることに、多くのスウェーデン人は憂いの表情を隠せない。

 しかも、医療専門家の多くが、スウェーデン政府と対策を主導する疫学者の戦略に懐疑的である。他国のように厳しく取り組むべきであり、さもないとスウェーデンは今までにない危機を迎えるだろうと、憂慮している。それでも、スウェーデン公衆衛生局で新型コロナ対策を主導した疫学者のアンダース・テグネル氏は「現在の政策は非常に効果があり、これからも継続させるつもりである」と強調している。