自然、中国の経済政策の重心は、内需喚起へとシフトせざるを得なくなった。2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)流行と同じく、「新型コロナ禍を乗り越え、高い経済発展を実現した」と胸を張りたかった習政権の目算が狂った。

 今「脱貧困」は「二つの100年」の公約以上に、新型コロナに対する勝利宣言の意味が深まってきている。これが中国外交に影響を与えないはずはない。

 「脱貧困」に全力投球したい習政権には静かな外交環境が不可欠だが、世界の風は読みにくい。中でも、米国のトランプ政権がたびたび言及する「中国責任論」に、世界が同調する動きには神経質にならせざるを得ない。

 感染症との戦いは歴史上、人類が避けられない共通の課題だが、感染源の中国への風当たりは強まっていく。筆頭は、大統領選を控えたトランプ政権だ。米国経済が疲弊すれば、国民も対中強硬を後押しするだろう。

 そして、中国は当面、この問題と向き合うことでエネルギーを消耗することだろう。

 4月29日、ロイター通信は「中国、米大統領選で私を敗北させたい=トランプ氏」と題した記事を配信した。先立って4月24日には、米政治サイト「ポリティコ」が、共和党全国上院委員会が各候補者のために作成した57ページの「選挙運動メモ」を入手したと報じた。メモには、共和党のトップ・ストラテジストが「中国を積極的に攻撃することで新型コロナ危機に対処するよう」アドバイスし、民主党候補者をいかに中国政府と結びつけるか、もしくは近い存在だと印象付けるか、その方法まで指南したという。

 既視感のある話だが、改めて中国叩きが米政界でインスタントに人気を得られる手段であることは理解できる。米世論調査の対中感情も、新型コロナの感染拡大後には史上最悪レベルにまで下落した。

 トランプ政権の「中国責任論」が何を指したものかは判然としない。だが既にメディアでは、賠償請求をはじめに、米国内の中国系企業の資産凍結、金融制裁や債務放棄、制裁関税から世界のサプライチェーン(供給網)から中国を排除する案まで取り沙汰されている。
2020年5月13日、米ホワイトハウスでの会議で、マスクを着用せず発言するトランプ大統領(ゲッティ=共同)
2020年5月13日、米ホワイトハウスでの会議で、マスクを着用せず発言するトランプ大統領(ゲッティ=共同)
 賠償請求に関しては、現行の国際法と国際保健規則(IHR)には、感染症の世界的大流行(パンデミック)に対する国家の引責の根拠となる条項はない。実際、2009年に米国発でパンデミック宣言が出された新型インフルエンザやエイズ、狂牛病、そして病原性大腸菌O157など国境を越えた被害が及んでも、賠償が発生したケースはない。なぜ中国だけが賠償の責を負うのか、過去との整合性は見つからない。

 ただ、トランプ政権が本気になれば、制裁関税や金融制裁を科したり、影響力を行使して中国をサプライチェーンからの排除するなど独自の方法で代償を求めることは可能だ。中国も対処を余儀なくされるだろう。