この構造は米中貿易戦争と酷似している。米中貿易戦争が激化した折、私は中国が「緩やかな『脱米』」に動くと指摘したが、それは新型コロナ禍の後にこそ顕著となる。

 ただし「脱米」といっても現実的な選択ではない。米国は依然、切っても切れない貿易パートナーで自国経済を発展させるためにも不可欠な技術の宝庫だ。

 ゆえに、ここで言う「脱米」は、最悪に備えるという意味でしかない。ただ、中国は確実に、米国の持つ愚かさと付き合うデメリットと、経済的なメリットを天秤にかけ始めている。

 「愚かさ」などと言えば語弊があるが、それは新型コロナ禍後にトランプ政権が中国に制裁を発動するその行為に集約されている。

 米国には中国に打撃を与える力はあるが、制裁で傷つくのは中国ばかりではない。中国が一方的にやられるはずもなく、待っているのは「ルーズ・ルーズ」だ。

 米中ともに新型コロナ禍のダメージから回復を急がなければならないときに、こんな泥仕合をすれば、経済回復はさらに遅れる。トランプ政権が、それを分かっていながら目先の人気取りに走るのならば、それは愚かさ以外の何ものでもない。

 中国にはもともと、米国に対抗するという「選択肢」はなかった。しかし、中国が新型コロナの感染拡大に苦しむ中、トランプ政権から「中国ウイルス」「武漢ウイルス」と次々に繰り出される「口撃」に、それまで曲がりなりにも保ってきた融和的姿勢は消え始めた。

 露骨な変化の象徴がポンペオ国務長官に対するあからさまな個人攻撃である。国営中央テレビ(CCTV)は、4月27日から4日連続でポンペオ批判を展開した。

 兆候は既に3月16日にあった。ポンペオ長官と電話会談した楊潔篪(よう・けつち)国務委員が、「武漢ウイルス」などと発言する政治家に対し、「一部の政治屋(政客)」という言葉を使い噛み付いたのだ。

 中国がこうした攻勢に出た背景には、国際社会における米国の存在感が薄れたことがある。習指導部は今、敏感にその変化を感じ取っている。
新型コロナウイルスについて中国の専門家と共同記者会見するWHOのエイルワード氏=2020年2月、北京(共同)
新型コロナウイルスについて中国の専門家と共同記者会見するWHOのエイルワード氏=2020年2月、北京(共同)
 今回の新型コロナ禍では、世界保健機関(WHO)の対応が象徴的だ。トランプ大統領はWHOが中国寄りだと批判し、資金拠出を停止するとプレッシャーをかけたが、同調する動きは広がっていない。また、WHOが圧力に反応して、大きく方向転換したという事実もない。