早期教育の議論が高まったきっかけは、米シカゴの貧困黒人層の子供たちを対象にした実験でした。123人の子供をほぼ半分に分けて、58人に読み書きと歌を教え、残りの65人には何もしませんでした。彼らにはすぐに知能指数(IQ)に差が出ましたが、8歳になる頃にはこのIQ差が無くなります。実は、これが20世紀末のお受験批判の根拠でもありました。

 ところが、この実験を行ったシカゴ大の研究者たちは幼児の人生を追い続けます。そして40歳になったときに、収入も持ち家率も犯罪率も、全ての点で幼児教育を受けた子供の方が優秀であることを明らかにしたのです。

 IQのような計れる能力、つまり「認知スキル」ではなく、コミュニケーション力のような測定しづらい「非認知スキル」に差が出るため、教育スタートは早い方がよいと考えるのが現代の世界標準なのです。

 それゆえ、今では米国のほとんどの州で、キンダーガーデン(米国の幼稚園)が義務教育になりました。欧州も国によって制度は異なりますが、多くの子が5歳から集団教育を受け始めます。

 5歳から義務教育を受け始める欧米人と、7歳まで義務教育を受けられない日本人というのが現状です。安倍内閣は日本経済を大不況にしただけでなく、日本人を今以上に非認知スキルの低い「愚人」にするつもりでしょうか。

 ですから、私は少なくとも5~6歳の9月、できれば4~5歳の9月から義務教育にすべきだと考えます。卒園後の4月から8月に学年を設ける移行案が報じられましたが、いずれは6〜7歳の9月になるだけで、安倍政権の提案に断固反対するのは当然です。

 今すぐ改革すべきでない理由の二つ目は、就職活動との関係性にあります。
新型コロナウイルスの感染拡大を受け、マスク姿で合同会社説明会の会場に向かう就職活動の学生ら=2020年3月1日、東京都港区
新型コロナウイルスの感染拡大を受け、マスク姿で合同会社説明会の会場に向かう就職活動の学生ら=2020年3月1日、東京都港区
 教育問題を論じる私の立場からすると、集団教育の開始が遅すぎるのが日本における最大の問題です。これと比較すると小さな問題かもしれませんが、学校の出口である就職活動との関係も課題になるでしょう。

 新型コロナ禍でブレーキがかかっていますが、長い目で見れば、人材のグローバル化は大きな流れでしょう。とはいえ、日本人が学校を終えて最初に就職する先は、圧倒的に日本企業が多いのが現実です。