
2020年05月21日 13:43 公開
新型コロナウイルス対策のロックダウン(都市封鎖)が続くシンガポールで、ビデオ会議アプリ「ズーム」を通して死刑判決が言い渡された。
死刑を宣告されたのは、プニサン・ジェンサン被告(37)。2011年の薬物取引事件に関わったとされ、15日に判決の言い渡しがあった。
シンガポールで死刑が遠隔方式で言い渡されたのは、これが初めて。
人権団体は、世界が新型ウイルスのパンデミック(世界的流行)対策に力を入れる中、死刑を進めようとするのは「認められない」と批判した。
「関係者の安全のため」
シンガポールでは大多数の裁判が、ロックダウン終了予定の6月1日より後に延期されている。
必要とみなされた裁判に限り、遠隔方式で公判を開いている。
同国最高裁判所はロイター通信に、「関係者全員の安全のため、ジェンサン被告の公判はビデオ会議システムを利用して開いた」と説明した。
ジェンサン被告の弁護士ピーター・フェルナンド氏は、同被告が上訴を検討していると述べた。
パンデミック中の死刑判決
シンガポールは違法薬物に非常に厳格な対策を取っており、2013年には18人の死刑が執行された。人権団体アムネスティ・インターナショナルは、少なくとも過去20年間で最多の人数だとしている。
18人のうち11人は薬物関連の罪に問われていた。
同国のジャーナリストで活動家のキルステン・ハン氏は、「ズームでの死刑宣告は、いかに死刑が機能的で行政的か見せつけている」と話した。
また、裁判所で公判が開かれなかったことで、被告の家族は被告と話をして手を握る機会を奪われたと指摘した。
アムネスティ・インターナショナルは今回の判決について、「薬物取引に死刑を科すことで、シンガポールが国際的な法律や基準を無視し続けていることを思い出させるもの」とした。
「世界がパンデミックの中で人命を救い守ることに集中している時に、死刑を追求するのはいっそう認められない」
他国でも遠隔宣告
人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ・アジアのフィル・ロバートソン副代表はBBCに、「死刑に直面している人には裁判所で告訴人に反論する権利があることを気に留めないほど、検察と裁判所が無情になっているのは衝撃的だ」と述べた。
ビデオ会議システムを通して死刑判決を言い渡したのは、シンガポールが初めてではない。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは今月、ナイジェリアで同様の宣告があったとして非難した。
ラゴスの裁判所は雇用者の母親に対する殺人罪に問われた被告に、絞首刑を宣告した。被告は無罪を主張していた。
ヒューマン・ライツ・ウォッチはBBCに、「取り返しのつかない刑罰は前近代的であり、本質的に残酷で非人道的だ。廃止されるべきだ」と話した。
BBCのアナ・ジョーンズ記者(シンガポール駐在)は、死刑の是非はシンガポールでほとんど議論されず、世論調査でも死刑は圧倒的な支持を受けていると説明。
同国のメディアはあからさまな政府批判をめったにしないため、今回のビデオ会議システムによる死刑宣告も大きな社会問題にはなりそうもないと伝えた。