清義明(フリーライター)

 5月22日に開幕した、中国の全国人民代表大会(全人代=国会)で、香港を対象とした「国家安全法」が制定される見込みだ。このあと常務委員会に諮られ、施行となる見込みだ。

 中国の国家安全法は2015年に、国家分裂を志向する反政府活動、外国による干渉や、テロ行為などを禁じることを目的として施行された。香港のものも、これとほぼ同種になるだろう。

 香港の「一国二制度」は、立法や行政、司法の三権が中国から自律することを保証し、両者ともに繁栄を目指していくというコンセプトだ。そのため、15年に制定された国家安全法は、香港に適用されなかった。

 香港の民主化運動は昨年からエスカレートして、全く収拾のつかないアナーキー(無秩序)な情勢となっている。昨年6月9日の100万人が参加したとされる大規模デモから、1年がたとうとしている。

 香港のこの1年は、騒乱と破壊と暴力が吹き荒れた。

 昨秋の地方選で民主派の地滑り的勝利があり、さらに新型コロナウイルス騒動で、民主化運動はいったんサスペンデッドとなっていたものの、いつまた暴発し始めるかは分からない。この事態に対して、やはり中国は手を打ってきたということだ。

 この民主化運動が国家主権の侵害にあたる分裂運動につながり、さらに米国をはじめとする国際社会の連携は外患誘致にあたるものとして、中国はこれを国防問題の一つとみなす法解釈をとる模様だ。そうすれば、香港での法的手続きなしで国家安全法の香港導入が可能となる。

 恐らく、これまでの香港における集会や言論の自由などに形式上は手をつけず、テロ行為とみなされる破壊活動や、国家分裂などを誘引するとされる言論活動は、今以上に厳しく取り扱うことになるだろう。ただし、これを現行の一国二制度を担保する「香港特別行政区基本法」とどのように整合性を持たせるのかは不明だ。

 この香港の民主化運動の1年は、香港市民の勝利と挫折、そして光と影が強烈なコントラストで互いに交差して一筋縄ではいかない事態となっている。

 民主化運動を主導した若者たちの反乱はアナーキーなものだった。彼らは自分たちの運動を「Be water (水になれ) 」と定義した。深淵(しんえん)ともいえるし衒学(げんがく)的ともいえる、ブルース・リーの有名な言葉から引用している彼らの大衆反乱の定義は、もちろん強大な敵に立ち向かうためには強みともなるし、また同時に弱点ともなる。
2020年1月1日、「香港独立」の旗を掲げてデモをする香港の若者たち(藤本欣也撮影)
2020年1月1日、「香港独立」の旗を掲げてデモをする香港の若者たち(藤本欣也撮影)
 現在の香港は日本の1968年の大衆反乱に似ている。あの運動は、一般には左翼セクトによる学生運動とみなされることが多いが、実際のところは中心を持たないアナーキーな大衆反乱だった。その巨大なエネルギーを制御する術(すべ)を、当時の学生運動はほとんど何も持ちえなかった。

 香港の民主化運動も中心を持たない。驚くべきことにインターネットの匿名アカウントたちの議論が、今の民主化運動を支えているといっても過言ではない。そして、それは時として暴走することもある。

 日本のとある洋菓子メーカーが、香港をめぐって先日ネットで炎上した。だが炎上したのは、日本国内ではなく、香港だ。

 事の始まりは、洋菓子メーカーに勤める香港在住の日本人が、ツイッター上で香港の民主化運動に批判的な書き込みをしたことがきっかけだ。批判的といっても、ちょっと皮肉めいた書き込みをしただけである。