日本では、昨年から始まった香港の民主化を求めるデモや運動を支持するような記事ばかりが見られる。しかし、実際に香港へ行って話を聞いてみると事情はやや異なる。

 実際の香港は、日々の生活をないがしろにし、香港経済を人質にするような「死なばもろとも」の抗議活動に対する批判は少なくない。

 特に香港在住の日本のビジネスマンなどからは民主派に同情的な意見が出つつも、「取材ということでなければ」ということで、こっそりとデモに批判的な意見を話してくれる人も多い。ただ「その人の立場や正体が明らかになる」ということならば、事情は別である。

 上記の件は、匿名で書かれた日本人のアカウントが何者か、民主派のシンパが探り当てた。どのように特定したのかは分からない。いわゆる「身バレ」である。しかも、アカウントが洋菓子メーカーの香港支社長のものであったから大変である。

 その洋菓子メーカーは日本資本の百貨店を中心に、数多くの直営店をアジアに出店している。香港有数の繁華街である銅鑼湾(コーズウェイベイ)の香港そごうに出店している他、有名なショッピングモールにもいくつか店舗を構えていて、それなりに知名度もある。

 特定された日本人支社長を糾弾するために、香港の民主化運動の牙城となっているネットの匿名掲示板「LIHKG」ではさっそくスレッドが立ち上げられた。「この支社長の書き込みは、香港の民主運動を冒涜(ぼうとく)するもので、悪意があり攻撃的である。この男のやることは理性を超えている」というような非難が書き連ねてある。

 ここまでの話だと、日本であればよくあることだ。ここから先はせいぜい電凸(でんとつ)といわれるクレーム電話があったり、不買運動めいたことがあるだろうが、それは抗議者が次のターゲットを見つけるまでの間だけだ。

 しかし、香港の場合は事情が違う。

 昨年6月に逃亡犯条例の改正案をめぐるデモが始まってから、香港の民主化運動は先鋭化し、制御が効かない暴力的なものとなってきている。それは日本で報道されているような「警察の弾圧に非暴力で立ち向かい不条理な弾圧を受けている」というストーリーでつづられるものとはかなり違う光景である。

 私が現地の最前線で見たのは、警察を挑発してレンガや鉄パイプで攻撃し、政府施設を破壊して突入しようとする民主運動の若者たちだった。

 日本の有名な中国問題のジャーナリストや香港民主運動のシンパたちは、最初のうちは「破壊行為をしているのは中国共産党に雇われたヤクザがやったこと」と書いた。あるジャーナリストは「若者が暴力的なことはやるはずがない」と断言していたが、そのうち暴力や破壊行為が大っぴらになってくると、ヤクザがやったという「陰謀論」をいつの間にか口にしなくなり、彼はやがて暴力行使を仕方ないものとして肯定することになった。

 次に見たものは、私の目の前で黒ずくめのデモ隊が何の罪もない運転手を集団リンチしている光景だった。
クルマから引きずりだされてリンチされた運転手(筆者撮影)
クルマから引きずりだされてリンチされた運転手(筆者撮影)
 駐車場に仕事のクルマを止めていた運転手が、後でデモ隊に周囲の路上を封鎖されてしまったらしい。それでクルマを通せ通さないと口論になったのだが、そのうちにお互い激高し、運転手はクルマから引きずり出され、人数で勝るデモ隊に気絶するまで殴り続けられていた。

 クルマはデモ隊によって徹底的に破壊され、割れたフロントガラスが散乱する路上には失神した運転手が転がっていた。