香港の民主派の多くは「このようなリンチが各所で行われているのは仕方ない」「警察の方がもっと悪いので、私たちが代わって政府支持者を攻撃している」と言う。けれども、私にはその理屈が全く理解できなかった。これが香港の人たちが求める民主主義なのかと、納得がいかない思いに何度させられたか分からない。

 このようなリンチは、今や香港で日常茶飯事になっている。デモ隊がいるところで、香港市民が広東語ではなく、北京語をしゃべっているだけで危険なことになる。

 デモ隊に文句を言ったために、何人もの保守派の市民がこれまでリンチに遭ってきたか、その数は相当なものになるはずだ。ある女性は水やペンキをかけられただけでなく、集団に囲まれ、侮辱されて追い回されたそうだ。ある男性は何人もの若者に民主化運動の象徴ともいわれた傘でめった打ちにされ、足蹴(あしげ)にされて路上に放置されたと訴える。

 また、暴行や暴力の現場を撮影する者はカメラを取り上げられることもあった。事情を知らない日本人が、デモの様子をカメラで撮っているところを襲われた事件もあった。その後、民主化運動の情報が飛び交う会員制交流サイト(SNS)上では「日本人のフリをするスパイがいるから写真を撮らせないように気をつけろ」という書き込みが回っていた。

 正当化された暴力はエスカレートし、デモ隊に抗議していた老人がガソリンをかけられ、燃やされたこともあった。このショッキングな映像は、日本でもテレビなどで報道された。衝撃を受けた日本の芸能人が、SNSで「どんな事情があろうとこんなことは許されるべきではない」とコメントとすると、日本の香港民主運動シンパのアカウントから大量の批判コメントがついた。どれも暴力を肯定するものばかりだった。

 香港の反政府運動で、一方的に若者が弾圧されて死者が出ているというのも誇張である。5月24日現在まで、デモ隊側に確実な死者が出たというのは1人だけだ。これも警察に直接やられたものではなく、警察に追われるうちに起きた転落事故である。

 あとはうわさに尾ひれがついたものとしか言いようがないものばかりだ。私が話を聞いた香港の民主派議員は、自身が弁護士でもあると断った上で「死者が出た噂に確証はない」と言った。

 そして、香港民主化運動における「悲劇」の象徴の一つは、片目を失明したといわれる女性だ。警察に発砲された制圧用のプラスチック弾が目に直撃したとされている。香港民主化運動の悲劇のヒロインとして、片目を手のひらで覆い隠すジェスチャーが、香港民主化運動の連帯のシンボルとなって世界中に広まった。

 だが彼女は自らの診断書の提出を拒否し、捜査のためにそれを入手しようとしている香港警察と裁判になっている。痛ましい事件であるが、彼女が本当に失明したかは今のところ闇の中だ。日本でもこの事件は大きく取り上げられたが、実は誰もこの情報の真偽を確認していない。

 悲劇のヒロインといえば、自殺したとされる女性が、実は警察に逮捕されて収監中に謀殺されたという話もある。これはさらに確認できない情報で、香港警察はもちろん否定し、母親も否定した。
商業施設で警備に当たるマスク姿の警官隊=2020年4月25日、香港(ゲッティ=共同)
商業施設で警備に当たるマスク姿の警官隊=2020年4月25日、香港(ゲッティ=共同)
 けれどもネットでは、母親も警察のグルで、しかも実の母親ではなく役者であると、あたかも事実のように語られている。

 これも事実かどうかは闇の中だ。しかし一つだけ言えるのは、この謀殺されたとする女性があたかも民主化運動の殉教者のように扱われていることだ。噂の域を出ないのにもかかわらず、香港の街中には彼女の写真が飾られ、花が献花されている。

 昨年の8月31日には、香港の地下鉄駅構内で警察とデモ隊の大きな衝突があった。その際にデモ隊側に複数人の死者が発生し、警察と地下鉄運営者側がその情報を隠蔽(いんぺい)しているというのも、香港では広く信じられている。

 だがその死者の正体は分からず、その病院で遺体を目撃したと情報をネットに上げた人物も匿名で、いまだに名乗りを上げていない。香港の警察監察機関(IPCC)はさまざまな証拠を挙げて、これがネットを中心に広がったデマと断定している。