なお、自衛隊がDP号で実際に実施したのは、診察、薬の処方、生活支援や生活物品などの搬入、船内における金属部分などの共同区画の消毒の他、下船者の輸送支援など多岐にわたる。これらを見ても、実に感染リスクの高い活動であることが分かる。また、巨大で複雑な構造のクルーズ客船内での活動で、前例のないオペレーションでもある。

 思い出すのは、2011年に起きた東日本大震災による福島第1原発事故の後、住民の一時帰宅の際に現場部隊を視察したときのことだ。そのときも、タイベック(高密度ポリエチレン繊維不織布)スーツにN95マスク、シューズカバーを装着した。オーバーブーツについては、度重なる水素爆発の後で、住民のモニタリングをした際に、ほとんどの靴底にセシウムなどが付着していた。

 さらにさかのぼるが、1995年の地下鉄サリン事件でも同様だった。プラットホームと車両の除染を深夜に終えた除染部隊指揮官の3等陸佐が、旧営団地下鉄(現東京メトロ)丸ノ内線の車両基地で「おい、おれの足を洗ってくれ!」と化学防護衣のゴム長靴を洗わせる映像が残っている。乗客の中にも、サリンを踏んだまま救急車に乗った人も多かっただろう。

 同様に、DP号の床は患者の咳やくしゃみでウイルスに満ちていた。オーストラリアの医療関係者の規定では、コロナ患者を診る際、安い靴を買っておいて家に入る前に外で履き替え、衣服も外で着替えることになっている。そこまで徹底が求められるのだ。

 自衛隊関係者以外でも、DP号においてはPPEやマスク、手袋をしていたことは間違いない。それではなぜ、感染者が複数発生してしまったのだろうか。可能性として、ありうることを列挙してみよう。

 例えば、防護服を着たままトイレに行くことがある。その度に着替えることは難しいかもしれないが、ウイルスはふん尿から感染しうることが、かつて重症急性呼吸器症候群(SARS)が問題になった当時から指摘されていた。公共のトイレは、街中などでも感染源となりうるのだ。

 また、食事の際はマスクを外すだけに、当然だがリスクは高まる。いろいろな所に触り、その手で顔や鼻、口を触る。防護服は着用していても、袖や裾、ウエストなどに隙間があればウイルスは中に入ってしまう。
クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の船内で集まる自衛隊員ら=2020年2月(防衛省提供)
クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の船内で集まる自衛隊員ら=2020年2月(防衛省提供)
 手袋をはめていても、カルテを作成する際には、カルテそのものや使用するペンも汚染される。訓練を受けていた医療関係者でさえ、あれだけの高率で感染してしまったのは、そんな要因があったのかもしれない。前述のオーストラリアの医療規定では、職場のペンや財布さえも持ち帰ることを禁じている。

 いずれにせよ、クロスコンタミネーションの可能性を踏まえると、たとえある程度のPPEで守られているとしても、接触感染のリスクがなくなったわけではない。空調は全部つながっていて、人々の動線も複雑に絡み合っているだけに、隊員への感染が起こりうる密閉空間だったのである。