中国において医療関係者の感染が相次いだとのニュースは、当初から伝わっていた。なぜ、ゴーグルや防護服、N95マスクも着用している彼らが高頻度に感染したのか。それを考えれば、飛沫(ひまつ)感染以外の接触感染やクロスコンタミネーションが起こっていたことを推測できたかもしれない。

 ちなみに自衛隊は、活動拠点として民間フェリーである「はくおう」や「シルバークイーン」を活用し、大がかりなロジスティクス(物資の供給)準備および支援を実施していた。はくおう内でも、感染のリスクに応じて動線を分けることなどの対策を講じている。隊員には栄養ある食事を3食とらせて、休憩時間や睡眠時間を十分に確保することで、心身の健康を維持し免疫力を落とさないよう着意していた。

 さらに防護を徹底するために、ウイルスを防護するタイベックスーツなどの着用において自衛隊独自の高い基準を適用し、その上で二重の手袋とテープを使用していた。防護服などの装着・脱着においては2人一組でのバディシステムを採用し、脱着作業において帽子が髪の毛を完全にカバーしているか、隙間がないかなどを確認していた。

 私がまだ1等陸尉の頃に、陸自の集団防護システム(CPS)の研究開発に短時間ではあるが参画していたことがある。CPSとは、いわゆるシェルターのことだ。外の環境が化学兵器や放射能、生物兵器で汚染されているときに、中でPPEを脱いでリラックスして休養したり、食事をとったり、あるいは作戦会議や指揮統制活動をするものである。

 実はこの出入りがとんでもなく面倒なものであった。入り口に続くウォームゾーン(化学剤または生物剤が存在しない場所に、汚染された人や物があらかじめ来ると予測され、かつ汚染の管理ができている付近一帯)においてPPEや防護マスク、オーバーブーツ、手袋などを規定の手順通りに脱いでいかなければならない。
鏡を見ながら慎重にマスクを装着する自衛隊中央病院の医療スタッフ=2020年4月30日、東京都世田谷区(田中一世撮影)
鏡を見ながら慎重にマスクを装着する自衛隊中央病院の医療スタッフ=2020年4月30日、東京都世田谷区(田中一世撮影)
 こうしなければ、中のトイレにも行けない。逆に外に出て行くときには、またPPEを着用することになるが、できれば全部新品を使いたい。一方で、高価な防護服を使い回さなければ兵站(へいたん)が持たないという事情もある。そこで汚染されてしまえば元も子もないからだ。

 だが、CBRNe(化学:Chemical、生物:Biological、放射性物質:Radiological、核:Nuclear、爆発物:Explosive)に対応するということは、ある意味でこうした面倒くさいことに耐えることである。そして、その「面倒さ」に耐えてきたのが自衛隊とも言えるだろう。自衛隊から感染者が出ていないのは、そうした「面倒さ」を愚直に実践できるところにあるのかもしれない。