この中国の怒りと不快感が「口信=メッセージ」には含まれている。「口頭親書」の使用を懇願する北朝鮮に対し、中国側は「信」の言葉に親書の意味を含んでいる前例があると、平気な顔で返事したことだろう。そうする一方で、新華社通信の日本語訳には「メッセージ」と訳させており、かなり意図的だ。

 どうも中国は、金委員長の健康がなお危うい事実をつかんでいるのではないか。それを裏付ける事実がある。

 ロイター通信は4月下旬に、中国共産党中央対外連絡部(中連部)の高官らが、北朝鮮を訪問したと報じた。この高官は宋濤部長とみられている。

 ロイターの報道に対して、中国外務省の報道官は否定も肯定もしなかった。それどころか、報道官は質問に「私たちには材料がない。ロイターに取材源を聞きたい」と、とんでもない返事をした。

 宋部長は中国で、北朝鮮担当の最高幹部である。2011年12月、金正日(キム・ジョンイル)総書記が死去する2日前に宋部長が密かに平壌に入り、後継者問題や中国の安全保障に関する約束、そして経済支援について話し合っていたことは以前の論考で指摘した通りだ。だからこそ、今回も宋涛部長が金委員長の健康状態を詳細に確認したのである。

 習主席が送った「メッセージ」の中にも奇妙な表現があった。「新たな時代の中朝関係」「双方の重要な共通認識を実行」という言葉だ。

 金委員長が権力を継承してからもう10年近くになるというのに、いったい「新たな時代」はいつを指すのか。実は、中国が金総書記以降の時代を「新たな時代」と示唆することで、何が起きても北朝鮮を支持し、支援するという立場を強調したという噂が、北朝鮮の首都平壌(ピョンヤン)では広がっているという。
朝鮮人民軍のサッカー競技を観戦する金正日総書記。2008年11月、朝鮮中央通信が公開した(共同)
朝鮮人民軍のサッカー競技を観戦する金正日総書記。2008年11月、朝鮮中央通信が公開した(共同)
 さらに「双方の重要な共通認識を実行」という表現には、いまだに実行されていないとの意味が含まれる。中国は金委員長の健康を「健全」とは考えていない、というメッセージだと分かる。

 何より金日成(キム・イルソン)主席の生誕記念日「太陽節」に、金主席を安置する錦繍山(クムスサン)太陽宮殿に参拝しなかった理由がいまだに不明だ。それに、前回の寄稿でも指摘した謎が残されている。金委員長が自筆の「親書」を送り、次の登場の際に肉声が聞こえるまでは、疑念が消えることはない。