2020年05月27日 8:54 公開

ミック・タッカー、エイドリアン・ゴールドバーグ、BBCファイル・オン4

イギリスで3月に開かれた大規模スポーツイベントが、同国に「多くの苦しみと死をもたらした」――。イギリス最大のCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)行動追跡プロジェクトを率いる科学者が、そう指摘している。

プロジェクトでは、数百万人のボランティアのデータを分析したその結果、競馬の障害競走の祭典「チェルトナム・フェスティバル」と、サッカーのチャンピオンズリーグの試合(リヴァプール対アトレティコ・マドリード)の直後に、新型ウイルスの感染が多発した「ホットスポット」ができていたことが分かった。

調査プロジェクトを率いるキングス・コレッジ・ロンドンのティム・スペクター教授は、これにより地域の感染者数の割合が「7倍増加した」としている。

一方、英政府は特定の地域の感染者数は、多くの要因が影響していること話している。

他国が延期するなか…

イギリス各地ではつい3カ月前まで、スポーツのイベントは通常通り行われていた。しかし当時、新型ウイルスの脅威はすでに目前に迫っており、一部の欧州諸国では無観客試合に移行したり、中止したりしていた。

イギリスの各種スポーツ運営団体は、ボリス・ジョンソン首相の3月上旬の宣言を判断材料にしていた。ジョンソン氏は当時、国民は「できる限りいつもどおり過ごす」べきだとしていた。

3月最初の週末には、イングランドとスコットランドでサッカーの試合が多数開かれた。さらに、競馬の5つの大会があったほか、ラグビーのシックス・ネイションズ(欧州6チーム対抗戦)のイングランド対ウェールズ戦も開催された。この試合はロンドン郊外トゥイッケナム・スタジアムが会場となり、ジョンソン首相も観戦した。

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他の国では対応が違った。シックス・ネイションズの試合はアイルランド・ダブリンでも予定されていたが、早々に延期が決まっていた。自動車レースのフォーミュラ・ワン(F1)の中国グランプリも、新型ウイルス感染拡大が深刻化したイタリア北部でのサッカーの試合も延期された。

しかし、英政府のスタンスは同じままだった。チェルトナム・フェスティバルの会場ゲートが開かれ25万人が押し寄せたのは3月10日だったが、そのつい前日には、オリヴァー・ダウデン文化相が、大規模な野外集会の禁止を求めて高まっていた声をはねつけた。

ダウデン氏はBBCに、「そうしたイベントの参加をやめたり、イベントを中止したりする理由は、現段階では存在しない」と話していた。

だが、キングス・コレッジ・ロンドンのスペクター教授は、政府のこの判断によって「おそらく複数の人の死期が早まっただろう」と述べた。


では、こうしたスポーツイベントが感染者の急増につながったのだろうか。

確実なことは言えない。しかし、BBCラジオの番組「ファイル・オン4」が確認したデータによると、リヴァプールとチェルトナムは3月最終週の時点で、感染が疑われる人々の数が最も多い地域に含まれていた。

このデータは、「COVID-19症状研究」がまとめたものだ。これら2地域の年齢20~69歳の住民のうち、推定5~6%に症状が出ていたとしている。

政府の接触者追跡アプリとは違い、この研究はイギリス各地の300万人超のボランティアがアップロードした情報を利用している。ボランティアたちは毎日、COVID-19関連の15種類の症状について、自覚の有無を報告する。


アイルランド人ジャーナリストのメラニー・フィンさんは、ダブリンから飛行機でチェルトナム・フェスティバルを訪れたとき、アイルランドとイギリスで取り組みが大きく違っていたと思い起こす。

「アイルランドはすでに、聖パトリックの日のお祝いを中止にしていました。それは私たちにとってかなり大きなことでした」

「みんなショックを受けていました。まさかこんなことになるなんて、誰も信じられませんでした。アイルランド政府がいかに本気か、それで分かりました。私たちがダブリン空港を発った時、空港は文字通りゴーストタウンのようでした」

一方、チェルトナム競馬に集まった人々は、英政府がイベントは安全でないと思うなら中止していたはずだと、そういう意見だったという。

フィンさんによると、来場者たちは基本的な安全ルールを無視していた。「まるでローマ帝国の最期のようでした。開いている以上は思い切り騒いで楽しんでやるぞという、そういう意気込みさえ感じました」

こうした状況を目にして不安になったフィンさんは、フェスティバルの途中で帰国できるよう勤務先に頼んだ。

しかし、その1週間後にはCOVID-19の症状が出て、それから2週間、仕事を休まざるを得なかった。

チェルトナム・フェスティバルを主催したジョッキー・クラブは、開催した判断の正当性を主張。英紙ガーディアンの4月2日付の記事で、政府と科学専門家が出していた「明確で継続中のガイダンス」に従ったと語った。

さらに、「当時最新の公衆衛生の助言に沿い、何百もの手の除菌用ジェルや追加の手洗い器の設置など、フェスティバルではさまざまな追加的な衛生対策を取った」とした。

フェスティバル2日目の3月11日、世界保健機関(WHO)は新型ウイルスのパンデミック(世界的流行)を宣言した。

体を触りまくっていた

その夜、サッカーのリヴァプールはアンフィールド・スタジアムで、アトレティコ・マドリードと試合を戦った。

約3000人のファンがマドリードからマージーサイドを訪れ、バーやレストランで交流した。マドリードはスペインにおける流行の中心地で、当時は同国で確認された感染者のほぼ半数を占めていた。

リヴァプールのサポーターで、8週間にわたって病気の状態が続いているジョエル・ルックウッドさんは、その夜にCOVID-19にかかったと信じている。そして、ゴールが決まったとき、観客たちがいかに新型ウイルスの伝染リスクを気にしていなかったかについて思い返した。

「そのときの喜びようは、私が経験した中でも最大級の身体的なものだった」と彼は言った。「みんな跳ねながら互いに体を触りまくっていた」

リヴァプールのサポーターグループの1つ、「ザ・スピリット・オブ・シャンクリー」は試合の2日前、マドリードからファンが来ることについて安全会議で懸念を表明したが、政府の助言に沿って、そのまま開催すると言われたという。

ただ、リヴァプールが一方的に試合を中止することはできなかっただろう。この試合は、チャンピオンズリーグの準々決勝にどちらが進むかを決めるものだった。中止の判断は、主催者の欧州サッカー連盟(UEFA)など、サッカーの運営組織のいずれかがしなければならない性質のものだった。

スペクター教授は言う。「スポーツイベントの休止は、少なくとも1週間は早く実施するべきだったと思う。それによって、苦しむ必要がなかった人が苦しみ、亡くなるはずではなかった人が亡くなった可能性がある」

英政府は声明でこう述べた。「特定の地域の感染者数は、人口密度や年齢、全般的な健康状態、パンデミック曲線のどの位置にあるかなど、多くの要因が影響を及ぼす」。

(英語記事 Sports events 'shut down too late to save lives'