2020年05月30日 12:42 公開

米ミネソタ州ミネアポリスで武器を持たない黒人男性を取り押さえて地面にうつぶせにさせ、膝で首を押さえつけていた元警官が29日、逮捕・起訴された。

白人のデレック・チョーヴィン元警官は25日、「息ができない!」と叫ぶジョージ・フロイドさん(46)の首を8分以上にわたり膝で押さえつけていた。フロイドさんは間もなく死亡。映像がソーシャルメディアなどで広く拡散し、チョーヴィン元警官と他の警官3人は免職された。

同州ヘネピン郡のマイク・フリーマン検事は記者会見し、チョーヴィン元警官を第3級殺人罪などで起訴したと明らかにした。ミネソタ州法の第3級殺人罪は「殺害の意図はないまま、不道徳な考えから人命を無視し、著しく危険な行為で他人を死亡させた」場合に適用される。

フリーマン検事は「示された証拠を受けてできる限り速やかに起訴した」と説明。「これほど素早く警官を起訴したのは初めてだ」と述べた。

フリーマン検事は、免職になった他の警官3人についても「起訴が予想される」としつつ、詳細は明らかにしなかった。

フロイドさんの遺族と弁護士は、元警官の逮捕は「歓迎するものの遅きに失した」と述べた。さらに、より刑の重い第1級殺人の適用を望んでいたし、他の警官たちの逮捕も希望すると話した。

遺族は声明で、市の警察に犯罪取締りの手法を変更するよう求め、「ジョージ・フロイドの遺族は今日、彼の子供たちに、自分たちの父親がなぜビデオの中で警察に処刑されたのか、説明しなくてはならない」と述べた。

バラク・オバマ前大統領も声明を出し、「2020年のアメリカでこれが『普通』であってはならない」と強調した。オバマ氏はさらに、「自分の子供たちには、高い理想に見合う国で育ってもらいたいと思うなら、もっとしっかりしなくてはならないし、そうできるはずだ」と述べた。

ミネソタ州のティム・ウォルツ知事は、元警官の逮捕は「正義に向けて良い第一歩」だと歓迎した。

ミネアポリスでは事件に抗議する激しいデモが連日続き、抗議行動は全米に広がっている。アメリカでは、黒人市民に対する警察暴力が長年の問題になっている。

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ホワイトハウスを封鎖

首都ワシントンのホワイトハウスの周りでも、参加者が「息ができない!」と叫ぶ抗議が続き、シークレットサービスは29日夜、ホワイトハウスへの出入りを禁止した。今回亡くなったフロイドさんのほか、2014年7月にはニューヨークで黒人男性のエリック・ガーナーさんが警官に取り押さえられ、「息ができない」と叫んだ後に亡くなっている。

ホワイトハウスの前では、シークレットサービスがデモ隊を押し返す事態が30日未明になっても続いた。

「双子の街」とも呼ばれるミネアポリスとセントポールでは、29日午後8時から30日午前6時まで、外出が禁止された。

ミネアポリスではフロイドさんが亡くなって3日目の抗議が続いた28日夜、警察署に火がつけられた。複数の建物が放火され、店舗の打ちこわしや略奪も相次ぎ、州兵が出動した。

29日には、現場で取材中のCNN記者とカメラマン、プロデューサーが生中継中に拘束された。

ミネアポリスやワシントンのほかにも、ニューヨーク、ロサンゼルス、シカゴ、ヒューストン、アトランタ、ルイヴィル、フィーニックス、コロンブス、メンフィスなどで抗議行動が起きている。

長年にわたる人種間の緊張や、黒人に対する警察暴力の問題を抱えてきたアメリカでは、最近ではジョージア州で住宅地を走っていて白人親子に射殺されたアーモード・アーバリーさんや、ケンタッキー州の自宅で警察に射殺された救急スタッフのブリオナ・テイラーさんなどをめぐり、怒りと苛立ちが高まっていた。


フロイドさんの死因は

郡検視官の正式な死体検案書はまだ発表されていないが、検察の起訴状によると検視の結果、窒息が直接の死因ではなく、心臓疾患のあったフロイドさんが「警察に取り押さえられたことと基礎疾患の組み合わせ、体内にもし酩酊物質があったならそれも合わせて」、死因になった可能性があるとしている。

検視官によると、チョーヴィン元警官は8分46秒にわたり、フロイドさんの首を膝で押さえつけていた。フロイドさんが反応しなくなった後も、3分近く、そうして押さえ続けていた。

膝をどかす2分近く前に他の警官がフロイドさんの右手首をとったが、脈拍は確認できなかったという。救急車でヘネピン郡病院に搬送され、その約1時間後に死亡が宣告された。

ミネソタ州の警官服務規程によると、容疑者の逮捕術として、相手の気道を直接圧迫しない形で容疑者の首を押す技術の訓練を受けた警官は、膝の使用を認められている。これは、容疑者制圧のための致命的ではない方法とされている。

トランプ氏は何と

トランプ大統領は29日、ホワイトハウスで「ひどい、ひどいことだ」と述べた。フロイドさんの遺族を「最高の人たち」と呼び、話をしたと明らかにした。

司法省はこれに先立ち同日、公民権法の違反がなかったか調査すると発表。トランプ氏は、その調査を迅速に進めるよう指示したと述べた。

一方でトランプ氏は、「これほど大勢が平和的に抗議しているのに、略奪者たちがその声をかき消すのを許してはならない」と強調した。

トランプ氏はこれに先立ち、商店を略奪するのはフロイドさんの思い出を汚す「ごろつき」だと発言していた。

ツイッター社は、「略奪が始まれば発砲が始まる」と書いたトランプ氏のツイートについて、暴力を賛美するものだと警告。自動表示されないように、警告文を上にかぶせた。利用者はクリックすればツイートの内容を読むことができる。

現場では何が

フロイドさんが死亡した経緯について、フロイドさんが偽造20ドル札を使った疑いがあると見て、警官たちがパトカーに乗せて職務質問しようとしたところ、フロイドさんが地面に伏せて自分は閉所恐怖症だと主張したと、ミネアポリス市警は説明している。

市警によると、フロイドさんが抵抗したため、警官が手錠をかけたという。

現場の様子をとらえた動画では、フロイドさんが地面にうつぶせになる前の経緯は分からないものの、白人警官がフロイドさんの首に膝をのせて押さえつけている様子や、フロイドさんが「お願いだ、息ができない」「殺さないで」などと発言する様子は見てとれる。

地元ナイトクラブの元オーナーによると、起訴されたチョーヴィン元警官とフロイドさんは昨年まで同じナイトクラブで、警備係として働いていたという。ただし、面識があったかは明らかになっていない。


<視点> 恐ろしい表現――バレット・ホームズ・ピトナー(ワシントン在住ジャーナリスト)

「略奪が始まれば、発砲が始まる」とトランプ大統領はツイートした。これは、1967年12月にマイアミ市警のウォルター・ヘッドリー本部長が使ったのと同じ表現だ。

1967年当時、フロリダ州マイアミのアフリカ系アメリカ人に対して脅しとして使われた言葉だ。ヘッドリー本部長は公民権運動のデモをくいとめるため、銃や警察犬の使用を奨励し、残酷な強硬策を推進していた。この表現はその強硬策の一部だった。

1968年8月にリチャード・ニクソン元副大統領がマイアミで開かれた共和党全国党大会で、秋の大統領選の党候補に選ばれた。その最中にマイアミ市警は抗議行動に参加した3人を殺害し、18人を負傷させ、200人以上を逮捕した。

1960年代のアメリカ各地で、アフリカ系アメリカ人は公民権や投票権を求めて闘い、それに対して各地で警察は激しい手法でデモを攻撃した。

ヘッドリー本部長のこの言葉は誰もが知るほど有名というわけではないが、その考え方はもう長いこと、アメリカの体制側に組み込まれてきた。捜査当局と政治家はこれまでもヘッドリーを連想させる発言を繰り返してきたし、今でもそうだ。

それだけに、今この時にこの国の政府のトップがヘッドリーの言葉を発するのを耳にするのは、恐ろしいことだ。


(英語記事 George Floyd death: Ex-officer charged with murder in Minneapolis