2020年05月31日 12:53 公開

黒人男性が白人警官に殺害された事件を受けて、ホワイトハウス前でも抗議する人たちがシークレットサービスともみ合うなど、抗議と騒乱が全米各地で相次いでいる。そうした中で事件の起きたミネソタ州の州知事は30日、州内の騒乱がもはや男性殺害と「何も関係ないものになっている」と述べ、州兵全員を動員するという異例の措置をとると発表した。

ミネソタ州ミネアポリスで25日、武器を持たない黒人男性ジョージ・フロイドさん(46)を取り押さえたデレック・チョーヴィン警官(44、29日に殺人罪で起訴)が膝でフロイドさんの首を9分近く押さえつけ、死亡させた。フロイドさんが「息ができない!」などと悲鳴を上げる様子を近くにいた人が撮影し、ソーシャルメディアで拡散した。チョーヴィン警官と、現場にいた他の警官3人は免職された。

この事件を受けて、ミネアポリスで始まった抗議は連日続き、全米各地に広がり、激化している。

ミネソタ州のティム・ウォルツ州知事は30日の記者会見で、「ミネアポリスとセントポールの素晴らしい都市が攻撃されている」、「ミネアポリスでの状況はいまや、市民社会を攻撃し、恐怖を駆り立て、この素晴らしい街を揺るがすためのものになっている」と述べた。

ウォルツ知事は、警察署や店舗などが焼かれた29日夜の暴力沙汰は、「これがジョージ・フロイドの死に関係するとか、有色人種コミュニティーへの不公平や歴史的トラウマに関係するとか、そういう振りをすることさえ、馬鹿にするものだった」と批判した。

ウォルツ知事をはじめ複数の政府当局者は、市内で暴力行為を繰り広げている多くは、騒ぎを大きくするために州外からやってきて暴れているのだと示唆しているが、詳細は明らかにしていない。

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州当局によると、29日夜には数万人がミネアポリスでの抗議に参加した。ウォルツ知事はすでに州兵の一部を事態鎮圧に投入しているが、初めて全州兵1万3000人を動員する方針を示した。

米国防総省は、ミネソタ州が要請するなら陸軍の軍警察を配備する用意があるとしている。

29日夜から30日未明にかけて、ミネアポリスのほか、ニューヨーク、ロサンゼルス、アトランタ、ポートランドなどで抗議する人たちが警察と衝突した。首都ワシントンではホワイトハウスの前にデモ隊が集まり、シークレットサービスと押し合いになった。シークレットサービスはホワイトハウスをしばらく封鎖して出入りを禁止した。

各地で夜間外出禁止令や緊急事態宣言が出されたが、複数の街で建物や警察車両に放火されたほか、店舗からの略奪も相次いだ。

フロイドさんが育ったテキサス州ヒューストンでは、抗議に参加した19歳の男性が米AP通信に対して、「僕が聞きたいのは、あと何人こうなるんだ?です。あと何人? みんな仲良く暮らす未来に、自分たちが抑圧されない未来に住みたいだけです」と話した。

ミネアポリスでは黒人住民と警察が長年の緊張関係にある。2016年7月には、自動車の後部ライトが壊れていたため警察に呼び止められた黒人男性フィランド・カスティールさん(32)が、警官に撃たれて死亡している。

また、この前日には南部ルイジアナ州で黒人男性が警察に射殺されていた。また1ヵ月後の8月半ばには、中西部ウィスコンシン州で黒人男性が警察に射殺され、続く同年9月下旬には南部ノースカロライナ州でも黒人男性が警察に射殺された、激しい抗議が市内で起きた。

アメリカでは多くのアフリカ系市民が、今も社会に根強く残る人種隔離により社会経済的に不利な状態に追い込まれており、白人よりも失業率が高い。

トランプ氏は何と

ドナルド・トランプ米大統領は30日、フロイドさんの殺害に「多くのアメリカ人が恐れと怒りと悲しみでいっぱいになった」と述べた。

スペースX社の宇宙船を乗せたロケット打ち上げの後、フロリダ州からテレビ演説したトランプ氏は、「平和を求める全てのアメリカ人の友人として、仲間として、私は今ここにいます」と言い、「略奪者と無政府主義者」を批判した。

トランプ氏は、今必要なのは「憎しみではなく癒し、混乱ではなく正義だ」と述べ、「暴れる暴徒が事態を支配するなど許さない。そうはさせない」と強調した。

これに先立ちトランプ氏は、集まったデモ隊からホワイトハウスを守ったシークレットサービスをたたえ、もしデモ隊がホワイトハウスの警備ラインを突破していたなら「見たことのないほど獰猛(どうもう)な犬と不吉な武器に迎えられていたはずだ」とツイートしていた。トランプ氏はさらに、抗議は「組織化された団体」によるもので「ジョージ・フロイドとは何の関係もない」とツイートした

「自分の家を燃やすな」と人気ラッパー

ジョージア州アトランタでは、CNN本社ビルの正面を含め、複数の建物が被害にあった。

ケイシャ・ランス・ボトムズ市長は記者会見で、「これは抗議ではない。これはキング牧師の精神にのっとるものではない。あなたたちはこの街をおとしめている。あなたたちは、ジョージ・フロイドの人生をおとしめている」と厳しく非難し、「自分を守るため、家にいてください」と呼びかけた。

同じ記者会見にはラッパーの「キラー・マイク」ことマイケル・サンティアゴ・レンダーさんも参加し、自分の親類にはアトランタ市警の警官が大勢いると前置きし、「自分はここにいたくない。でもこうするのが自分の義務だと思う」として、「自分も激怒してる。でも抗議したいなら、自分の家を燃やすな。自分の家を守って、投票して抗議しろ」と呼びかけた。

ニューヨーク市ブルックリンでも、抗議者が警察にものを投げつけ、パトカーに放火するなどして衝突した。複数の警官が負傷し、多数の人が逮捕された。

現場では何が

フロイドさんが死亡した経緯について、フロイドさんが偽造20ドル札を使った疑いがあると通報を受け、警官たちがパトカーに乗せて職務質問しようとしたところ、フロイドさんが地面に伏せて自分は閉所恐怖症だと主張したと、ミネアポリス市警は説明している。

市警によると、フロイドさんが抵抗したため、警官が手錠をかけたという。

現場の様子をとらえた動画では、フロイドさんが地面にうつぶせになる前の経緯は分からないものの、白人警官がフロイドさんの首に膝をのせて押さえつけている様子や、フロイドさんが「お願いだ、息ができない」「殺さないで」などと発言する様子は見てとれる。

地元ナイトクラブの元オーナーによると、起訴されたチョーヴィン元警官とフロイドさんは昨年まで同じナイトクラブで、警備係として働いていたという。ただし、面識があったかは明らかになっていない。

フロイドさんの死因は

郡検視官の正式な死体検案書はまだ発表されていないが、検察の起訴状によると検視の結果、窒息が直接の死因ではなく、心臓疾患のあったフロイドさんが「警察に取り押さえられたことと基礎疾患の組み合わせ、体内にもし酩酊物質があったならそれも合わせて」、死因になった可能性があるとしている。

検視官によると、チョーヴィン元警官は8分46秒にわたり、フロイドさんの首を膝で押さえつけていた。フロイドさんが反応しなくなった後も、3分近く、そうして押さえ続けていた。

膝をどかす2分近く前に他の警官がフロイドさんの右手首をとったが、脈拍は確認できなかったという。救急車でヘネピン郡病院に搬送され、その約1時間後に死亡が宣告された。

ミネソタ州の警官服務規程によると、容疑者の逮捕術として、相手の気道を直接圧迫しない形で容疑者の首を押す技術の訓練を受けた警官は、膝の使用を認められている。これは、容疑者制圧のための致命的ではない方法とされている。

(英語記事 George Floyd death: Minnesota governor decries violent protests / George Floyd death: Violence breaks out amid US protests