2020年06月05日 17:40 公開

抗マラリア薬「ヒドロキシクロロキン」が新型コロナウイルスの感染患者の死亡リスクを高めるとした医学誌の論文を、データの信用性に対する懸念を理由に、執筆者らが取り下げた。

論文は英医学誌ランセットに先月22日に掲載され、反響を呼んだ。

世界保健機関(WHO)は、ヒドロキシクロロキンの臨床試験を中断。一方、ドナルド・トランプ米大統領ら指導者たちは、同薬を推奨し続けている。

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論文について、執筆者のうち3人が正確さを保証できないとした。データを出した医療関連企業サージスフィアが、独立した検証に協力しないためだと説明した。

サージスフィアの最高経営責任者(CEO)で論文の執筆者として名を連ねたサパン・デサイ氏は、英紙ガーディアンに、独立した検証に協力する意向を示した。しかし、データの転送は「顧客との契約と守秘義務に違反」すると述べた。

論文の中身は?

論文にまとめられた研究では、世界671カ所の病院の新型ウイルス感染症患者9万6000人のデータが用いられた。このうち約1万5000人が、ヒドロキシクロロキンあるいはそれに類するクロロキンを、単独もしくは抗生物質との併用で投与された。

その結果、新型ウイルス感染症に対する治療効果はまったく見られず、心拍異常と死亡するリスクが高まったとした。

ところが、研究チームを率いた米ハーヴァード大学のマンディープ・メーラ教授と、スイス・チューリヒ大学病院のフランク・ルシツカ氏、米ユタ大学のアミト・パテル氏は声明で、データを第三者に検証してもらおうとしたところ、サージスフィアが協力を拒んだと説明。

「(ランセットの)編集者と読者をおそらく困惑させ迷惑をかけたことについて、深く謝罪する」とした。

コロナウイルスに効く証拠はある?

ヒドロキシクロロキンのような薬をコロナウイルス感染者の治療に使うことには、科学者らから懸念の声が上がっている。

ヒドロキシクロロキンはマラリアやループス腎炎、関節炎などの治療には安全に使用できるが、新型コロナウイルスの感染症COVID-19への効果は実証されていないからだ。

米ミネソタ大学の臨床試験は、ヒドロキシクロロキンにはコロナウイルス感染症の予防効果はないとしている。

WHOは3日、先月中断したヒドロキシクロロキンの臨床試験を再開すると表明した。

ヒドロキシクロロキンの研究は、イギリスやアメリカ、セネガルなどの国でも進められている。

米国で処方が急増

米食品医薬品局(FDA)は3月、一部の病院でヒドロキシクロロキンを「緊急使用」することを認めた。しかし4月、患者の一部に心機能の異常が出たとの報告がいくつかあったことから、使用について警告を発した。

トランプ氏は5月、COVID-19予防薬としてヒドロキシクロロキンを服用していると明らかにした。その後、服用をやめたと述べた。

トランプ氏はこれまで、ヒドロキシクロロキンがもつ可能性に繰り返し言及してきた。4月の記者会見では、「失うものはないだろう? 飲んだらいい」と述べた。

トランプ氏の発言を受け、アメリカではヒドロキシクロロキンとクロロキンの処方が急増した。

一方、ブラジルのジャイル・ボルソナロ大統領は、「ヒドロキシクロロキンはあらゆる場所で機能している」とビデオで主張した。ただ、フェイスブックはこのビデオを、同社の偽情報のガイドラインに違反するとして削除した。

ヒドロキシクロロキンの需要は世界的に急激に高まっている。

(英語記事 Influential study on coronavirus drug withdrawn