吉川圭一(グローバル・イッシューズ総合研究所代表)

 米ミネソタ州のミネアポリスで起きた白人警察官による黒人男性暴行死事件に対する抗議デモが全米に広がり、一部が暴徒化したため31の州が非常事態を宣言し、3万人以上の州兵が動員された。

 デモの一部暴徒化は「ANTIFA」(アンティーファ)と呼ばれ、反ファシズムを標榜する極左過激勢力が背景にあるとみられており、トランプ政権はアンティーファを「国内テロ」団体に指定する意向を示した。5月末に彼らを監視していた連邦政府のテロ対策専門警備員が銃撃され1人が死亡しており、デモ隊の8割はアンティーファだという情報もある。

 今回のデモでアンティーファは、ワシントンDCの歴史的建造物であるリンカーン記念館まで、黒人差別の象徴として破壊しているとされる。これが事実なら、黒人差別への抗議ではなく破壊のための破壊で、州兵の動員も当然と言えるだろう。

 しかし、州兵を動員すれば、アンティーファ以外の真に善意で黒人の人権尊重のためにデモに参加した人が傷ついたりする可能性がある。平和的な抗議行動を取り戻すためにアンティーファと闘っている黒人がいるのも確かだ。

 まして、6月1日になってトランプ大統領は、各州が州兵で暴徒を鎮圧できない場合を踏まえ、正規軍の投入まで示唆した。これについては賛否が渦巻き、その後トランプ大統領は事実上撤回したが、州兵で足りなければ正規軍投入を検討するという考えこそ、部分ではなく全体を守る意味で、後述するように真の危機管理である。

 一方、パンデミック(世界的大流行)となった新型コロナウイルスに対する日本政府ないし東京都の緊急事態宣言には「行き過ぎ」だったのではないかとの批判も多い。

 特に東京都の小池百合子知事に関しては、国の緊急事態宣言による休業要請にない飲食業や遊興業の一部を少なくとも都内では国と交渉して付け加えるなど、自らの存在感を誇示するようにも見えた。だが、それぐらい「行き過ぎ」をするのが危機管理だとも言える。

 そして本当に「行き過ぎ」だったのだろうか。およそ2カ月前を振り返れば、緊急事態宣言が7都府県に発令された3日後の4月10日時点で、東京都の感染者増加率は、3月19日時点でのカリフォルニア州と同じくらいである。この日、外出自粛要請を出したカリフォルニア州では、4月10日現在の感染者数は約2万人でだった。

 これに対して感染爆発(2週間前より感染者数が10倍)になった以降の3月22日に外出自粛要請を出したニューヨーク州では、4月10日現在の感染者は17万人である。つまり小池知事が危機管理のために「行き過ぎ」た対策をとったとは言えない。

 だが、ニューヨーク州のクオモ知事は違うように見えた。明らかに今秋の大統領選を意識し、あわよくば民主党の大統領候補を視野に、「行き過ぎ」を行い必要以上に問題を大きくしたとの見方がある。
2020年5月7日、米ニューヨーク州で記者会見するクオモ知事(ロイター=共同)
2020年5月7日、米ニューヨーク州で記者会見するクオモ知事(ロイター=共同)
 こうしたクオモ知事の言動の背景には、民主党の大統領候補選びの混迷がある。有力者の一人だったサンダース上院議員は予備選から撤退したが、それは積極的な選挙運動を停止したにすぎない。予備選の残された州で使われる投票用紙には彼の名前も残っている。