一つ目は「好況の創出」である。トランプ氏が掲げて実現した公約として、製造業を含む雇用拡大がある。コロナ直前まで株式市場は好調であり、アメリカは好況に沸いていたと言ってよい。もちろん、全国民が等しく潤っていたかはともかくの話だ。

 もっとも、バラク・オバマ政権時代の最後期あたりから景気は上向き始めており、トランプ政権初期では彼の功績ではないと言うこともできた。しかし、それから3年にもわたって持続していた好景気を、いつまでも前政権の功績に帰することはできまい。

 トランプ氏の二つ目の実績として「対外政策」を挙げたい。17年12月6日、トランプ氏はエルサレムをイスラエルの首都と認定し、テルアビブにある大使館の移転手続きを開始する旨を発表し、西欧を含む国際社会の批判を浴びた。しかし、エルサレムを首都として承認すること自体、実はビル・クリントン元大統領が1992年の大統領選に名乗りを挙げた際に掲げた選挙公約であった。これは95年にエルサレム大使館法として連邦議会で議決されたものの、民主・共和を問わず歴代大統領は正面から反対せずに、実行を先延ばしにしてきたのである。

 もちろん「なぜ今になって?」という感は否めない。しかしこれもまた、彼の愚直なまでに選挙公約を実行しようとする姿勢の延長線上だと理解できる。

 中東に関しては、イラン革命防衛隊の精鋭「コッズ部隊」のカセム・ソレイマニ司令官を無人機を使って殺害した。これが今年に入って間もない1月3日であったことは、もうほとんど忘れられている。

 この直後、アメリカとイランの全面軍事衝突かと思われたが、イランの「反撃」はかなり抑制されたものにとどまった。イランは勝算なしと見て自制したのであろう。さらに1月28日、新たな包括的中東和平案を発表している。内容は、総体としてイスラエルに有利なものであった。これらの一連の政策の背景には、やはりアメリカでのシェールオイルの生産量増大がある。

 アメリカの原油産出量は、ロシア、サウジアラビアを凌駕(りょうが)するまでに伸長している。これはすなわち、中東原油への依存度低下を意味し、堂々とイスラエルに肩入れできるようになった。これは中東に緊張をもたらす軍事行動への敷居が低くなったということも意味する。

 ソレイマニ司令官殺害は、決して衝動的な短慮に発したものではあるまい。イランの対応を読み切った上で、1月初頭に北朝鮮による核・大陸間弾道ミサイル(ICBM)実験の再開に対する警告効果をも計算した周到な作戦であったと私は考えている。

 また、1月15日には中国と「第1段階」の貿易協定で合意した。その内容は、かなりアメリカの主張の通った点ばかりが目に付くものであった。つまり、中国に大幅な譲歩を強いたのであり、トランプ氏の勝利であったと言える。

 だが、トランプ氏が公約に掲げたようなこれらの一連の動きがアメリカを再び「偉大」にしたのかどうか、一概には言えない。そもそも「偉大」とは何を意味するかによって、正反対の評価もできよう。

 ただし、政治経験の乏しさや、側近、要職者の目まぐるしい交代ばかりに目を奪われ、果ては弾劾訴追で任期を全うできないかもしれないなどという評価は、弾追が空騒ぎに終わった今、完全に誤っていたといえる。

 トランプ氏は18年の中間選挙で、下院の過半数を失う手痛い敗北を喫した。しかし、中間選挙はそもそも政権党に分が悪いものなのだ。1862年以後の中間選挙39回で政権与党が勝ったのは、わずかに2回にすぎない。その2回も第2次大戦と9・11テロという国家的危機のときである。

 中間選挙史上、政権党の最大敗北は、議席数では2010年にバラク・オバマ政権時の民主党が下院で63議席を失っている。94年のクリントン政権時の民主党は下院で54議席を失った。共和党の場合、ウォーターゲート事件の影響で74年のジェラルド・フォード政権時に、下院で48議席を失った。議席の減少率からして、これこそが中間選挙史上最大の政権党の敗北であるとすることもできよう。これらに比べれば、トランプ氏の議席減は、よく踏みとどまったと言えなくもない。

 なおかつ、トランプ氏は着々と再選に向けて手を打ってきている。それは、「黒人」「ヒスパニック」「ユダヤ」の3つの民主党支持の少数者集団に、くさびを打ち込もうとする試みである。
2020年6月5日、米東部メーン州で話すトランプ大統領(AP=共同)
2020年6月5日、米東部メーン州で話すトランプ大統領(AP=共同)
 一つ目の黒人層は堅固な民主党の支持基盤であり、他の先進民主国には同様の例を見いだせない。もちろん、黒人層の過半数を取り込めるなどとは誰も思っていない。しかし16年の大統領選では、それでも8%の黒人がトランプ氏に投票した。さらに4~5%の黒人層に食い込むことができれば、大きな違いを生み出せる。大統領選は決して全国で得票数を争うのではなく、州ごとの争いであるからだ。

 激戦州、接戦州でのわずかな票の上積みが、その州の選挙人の総取りにつながる。人種差別の時代には大学から締め出されてきた黒人に、トランプ氏は高等教育の機会を提供してきた「歴史的黒人大学」への連邦補助金支給法に署名し、これを成立させた。さらに黒人が不満を募らせている刑事司法制度の改革を図るなど、黒人層を意識した政策も実行してきたのである。