二つ目のヒスパニック層に関しては、黒人をしのぐ(妙な言い方だが)全米最大のマイノリティー集団となり、黒人ほどではないにせよ、民主党に傾いている。それでも先の大統領選では、ヒスパニック系票の3分の1近くがトランプ氏に向かったとみられる。

 ロイター通信と調査会社イプソスが昨年7~9月に実施した世論調査では、トランプ氏に対するヒスパニック系の支持率は29%に達した。そして彼らの多くは、アリゾナやフロリダといった激戦州に住んでいる。黒人層と同じく、ヒスパニック系へのわずかな浸透が巨大な差を生むことができるのだ。ただ、ロイターによれば、昨年5月から約半年間にわたるトランプ陣営の戦術は物議を醸しかねないと指摘している。

 それはすなわち、英語とスペイン語のフェイスブック投稿の内容が全く違うため、「言語別差別化宣伝」だともいえる。英語では「不法移民取り締まり強化」への支持を呼びかける一方、スペイン語ではその点にほとんど触れていない。代わりに「アメリカ経済は好調だが、民主党はベネズエラ式社会主義を望んでいる」といった内容が表示されているのである。

 そして、三つ目のユダヤ系については、前述したイスラエル寄りの政策が、同じく民主党に傾きがちな少数派のユダヤ系の票を意識したものでもあろう。それに加えて、トランプ氏は中絶反対派にも接近した。強硬な中絶反対派は、今日アメリカでは多数派ではなくなっている。実は、トランプ氏は政界に進出するまで中絶容認派であり、大統領選でもこうした社会文化争点に対する態度をあいまいにしていた。

 しかし、1月24日、ワシントンで行われた人工妊娠中絶反対を訴える恒例の大規模行進デモ「マーチ・フォー・ライフ(命のための行進)」に現職大統領として初めて出席し、演説している。中絶反対派はキリスト教福音派(エバンジェリカル)と重なるところが大きく、トランプ氏がつなぎ留めておきたい層なのである。

 ただコロナ禍により、トランプ陣営の再選戦略が大きく狂ってしまったといえよう。彼のお気に入りの大規模なコンサート風支持者集会を開くことは、もはやできない。とはいえ、ウイルスは党派を選びはしない。民主党のジョー・バイデン前副大統領も自宅からインターネットを介した「巣ごもり選挙」を余儀なくされている。候補者が自宅にとどまって選挙運動を行うのは1896年のウィリアム・マッキンリー大統領以来、実に124年ぶりのことになる。

 なお、トランプ政権のコロナ対応への評価は世論調査を見る限り、高くない。しかし、トランプ氏に同情すべき点もなくはない。まず考慮すべき点は、都市封鎖や外出制限などの発動権限が州知事に帰属するということだ。

 憲法上、明文で連邦政府に帰属する権限以外は各州の権限なのだ。都市封鎖を解除し、経済活動を再開しようとしても、大統領にできるのは「経済を再開できる一般的な条件を指針として示すこと」にとどまる。知事が従わなくとも、どうすることもできないのである。

 さらに大統領には、それが連邦憲法に違反すると判断されない限り、州法に介入することはできない。南部中心にいくつかの州の州法では、白人至上主義の秘密結社「クー・クラックス・クラン(KKK)」取り締まりのために、公共の場所で顔を布で覆うことを禁じていた。

 コロナ対策として、マスク着用の推奨や義務化に関し、こうした州法の改正や効力停止の措置が必要であったことはあまり知られていない。トランプ氏のマスクの嗜好は自ら決められても、これらは大統領がどうこうできないのだ。

 ところで、アメリカがコロナ対策に難儀している理由として、アメリカ人自身が政府の干渉や強制に対して警戒し、強い拒否反応を持つということを挙げておきたい。参考に、ギャラップ・インターナショナル・アソシエーションが世界30カ国で行った「新型コロナウイルスに関する国際世論調査レポート」を見てみよう。

 質問の中で「ウイルス拡散防止に役立つなら、自分の人権をある程度犠牲にしてもかまわない」に同意する割合が示された。アメリカは45%にとどまり、対象国中、下から2番目となった。ちなみに最高はオーストリアの95%で、他にもイタリア93%、タイ85%、フランス84%、韓国80%と目を引く。では、アメリカ人は少しわがままだといえるのだろうか。実はワースト2のアメリカを大きく引き離し、32%しか同意しなかった堂々最下位の国がある。

 それは、わが日本である。確かに、昨今「マイナンバーで管理されるのは嫌だ。でも、給付金はすぐよこせ」とよく耳にするが、その両立は基本的にできない相談だろう。それはさておき、話をトランプ氏のコロナ対策に戻そう。

 コロナに対するトランプ氏の対応を困難にしているもう一つの要因は、アメリカ全土で一様に感染爆発が起こっているわけではないことだ。さらに、共和党と民主党の支持州と相関しているので、事態はより複雑になる。

 アメリカの政治的分断を語る際によく使われる表現に、共和党支持者が多い州は「赤」、民主党支持者が勝る州は「青」というものがある。これは必ずしも州内全てが「真っ赤」「真っ青」というわけではない。もちろん誇張はあるものの、この区分とコロナ禍の関係が実に興味深い。
2016年米大統領選の各州の結果。赤が共和党、青が民主党(Getty Images)
2016年米大統領選の各州の結果。赤が共和党、青が民主党(Getty Images)
 赤の州と青の州を、各州知事の党籍で便宜的に分けてみる。そして、アメリカ疾病対策センター(CDC)が公開している全米感染者マップと比較すると、感染者の約3分の2が青の州に見られることが分かる。死者数でも人口当たり死亡者数でもほぼ同様の結果である。

 別にウイルスが民主党を好むわけではない。青の州は人口の密集した大都市圏を含んでおり、大勢の人々が利用する公共交通機関が発達している。これらは、ウイルスの伝播(でんぱ)に好都合な環境である。