
2020年06月09日 12:15 公開
ジェイムズ・ギャラガー、健康・科学担当編集委員
新型コロナウイルス対策のロックダウン措置によって、欧州で300万人以上の人命が救われたとする研究結果が8日、学術誌「ネイチャー」に発表された。
英インペリアル・コレッジ・ロンドンの研究チームは、ロックダンを実施していなければ「死者数は膨れ上がっていた可能性がある」としている。
一方で同チームは、これまでに感染している欧州の住民はごく一部で、まだ「パンデミック(世界的流行)の始まり」の段階にあると警告した。
別の研究も、世界的ロックダウンが「かつてないほど短期間でより多くの人命を救った」としている。
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インペリアル・コレッジ・ロンドンの研究では、オーストリア、ベルギー、デンマーク、フランス、ドイツ、イタリア、ノルウェー、スペイン、スウェーデン、スイス、イギリスの欧州11カ国における、5月初旬までの移動制限措置がもたらした影響を評価した。当時この国々では計約13万人が死亡していた。
研究者たちは、ロックダウンを実施しなかった場合の死者数を数量モデルで予測した。
同研究グループは今年3月、イギリスで25万人が死亡するとの推計を公表し、英政府のロックダウン開始決定につながった。
対策なければ320万人が死亡していた
今回の研究は、事業の休業や自宅待機などの対策がなければ、5月4日までに320万人が死亡していたと推計した。
つまり、ロックダウンがイギリス人47万人、フランス人69万人、イタリア人63万人を含む約310万人の命を救ったことになる。
「ロックダウンで数百万人もの死が回避できた。それだけ亡くなっていたら悲劇だった」と、インペリアル・コレッジ・ロンドンのセス・フラックスマン博士は述べた。
この研究は、死者数の推計に影響する仮定をいくつか立てて試算を行っている。
研究では、ロックダウンがなければ、COVID-19(新型ウイルスによる感染症)の脅威に対する行動を変えなかったはずだと仮定した。
その他、病院はひっ迫せず、死者数の急増にはつながらなかったという仮定をもとにしている。一部の国では実際に、病院がひっ迫寸前に陥った。
この研究ではロックダウンによる健康への影響も考慮されていない。こうした健康への影響が完全に明らかになるには数年かかるかもしれない。
まだ始まりにすぎない?
予測モデルはさらに、ロックダウンがなければすでに非常に多くの人が感染し、今頃はアウトブレク(大流行)収束目前の段階にあったはずだと推定。その場合、イギリスでは10人に7人以上が感染して集団免疫の獲得につながっていたはずで、新型ウイルスの拡大は収まっていたはずだという。
その代わりに、5月初旬までに欧州全体で最大1500万人が感染していたはずだと推測している。
研究者たちは、評価対象の11カ国でこれまでに感染したのは多く見積もっても、総人口の4%ほどだとしている。
「感染拡大は完全に終わったなどという言い分は、全否定できる。我々はまだパンデミックの始まりの段階にある」と、フラックスマン博士は述べた。
つまり、各国がロックダウンを緩和する中で、新型ウイルスが再び拡大し始める恐れがあるということだ。
「人の移動が元に戻れば、感染の第2波が近く起きる可能性は非常に高い。来月あるいは2カ月以内に起こりうる」と、インペリアル・コレッジ・ロンドンのサミル・バット博士は述べた。
「かつてないほどの短期間でより多くの人命救った」
こうした中、米カリフォルニア大学バークリー校による別の研究では、中国、韓国、イラン、フランス、アメリカにおけるロックダウンの影響の分析が行われた。
同じく学術誌「ネイチャー」に発表された研究結果によると、分析の対象国ではロックダウンで5億3000万人の感染を防ぐことができた。ロックダウンが導入される直前の感染者数は、2日ごとに倍増していたという。
同チームの研究者の1人、ソロモン・シアン博士は、新型ウイルスは「人類にとって真の悲劇」となったものの、感染拡大を阻止するための世界的取り組みによって、かつてないほどの短期間で以前より多くの人命を救った」と評価した。
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