
2020年06月09日 13:10 公開
米ミネソタ州ミネアポリスで武器を持たない黒人男性ジョージ・フロイドさん(46)を殺したとして殺人罪で訴追された元警官が8日、同市内の裁判所に初めて出廷し、裁判官は保釈金を125万ドル(約1億3500万円)に設定した。
検察当局は「嫌疑の重大性」と人々の激しい怒りを理由に、保釈金は100万ドル以上とするよう求めていた。
フロイドさんの死をめぐっては、首を膝で約9分間圧迫し続けた元警官のデレク・チョーヴィン被告(44)が第2級の殺人罪と故殺罪などで訴追されている。その他、元警官3人が殺人ほう助罪で訴追されている。4人は事件後に全員、免職となった。
(編集部註:チョーヴィン元警官の姓のカタカナ表記は、元警官を起訴したミネソタ州司法長官や同州ヘネピン郡検察官による会見での発音を参考にしています)
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勤続19年のベテラン警官だったチョーヴィン被告はこの日、ビデオ会議システムを使用して出廷。罪状認否はしなかった。
開廷中の15分間、発言することはなく、オレンジ色のつなぎを着て手錠をされた状態で、小さなテーブルの前に座った。
ジャニース・M・レディング裁判官は、無条件保釈の場合は125万ドルに、条件つきの場合は100万ドルに保釈保証金の額を設定した。条件には、フロイドさんの家族に接触しないことや銃器の放棄、裁判を待つ間に警官や警備員として働かないことなどが含まれた。
チョーヴィン被告の弁護士は保釈金について、異議を唱えなかった。
同被告は逮捕後何度か移送され、現在はミネソタ州刑務所で勾留されている。次の出廷日は今月29日に設定された。
同被告は第2級殺人罪(最長刑は禁錮40年)、第3級殺人罪(同25年)、第2級故殺罪(同10年)で訴追されている。
検察は複数の罪状で訴追することで、陪審の選択の幅を広げるとともに、有罪に持ち込む確率を高める狙いがある。
AP通信は、第1級殺人罪での有罪には計画性と殺意、動機についての証明が必要なため、検察当局が新たな罪状を加える可能性は小さいと伝えた。
社会的距離を取って追悼
フロイドさんがミネアポリスへの転居前に長年暮らしたテキサス州ヒューストンでは、フロイドさんの遺体が市内の教会に安置され、6時間にわたり弔問者が訪れた。
マスクや手袋を着用した人々は、社会的距離確保のルールに従って、フロイドさんの棺に歩み寄った。教会に一度に入る人数は15人に制限された。
9日には同市で、遺族らによる葬儀が行われる。すでにミネアポリスと、フロイドさんが生まれたノースカロライナ州で、追悼式典が開かれている。
今秋の大統領選挙で民主党候補になるのが確実のジョー・バイデン前副大統領は8日、ヒューストンでフロイドさんの親族と個人的に面会し、哀悼の気持ちを伝えた。
親族の広報役を務めるベンジャミン・クランプ弁護士は、「(バイデン氏は)話を聞き、親族の痛みを受け止め、深い悲しみを共有した」とした。また、バイデン氏と親族の面会の写真をツイッターに投稿し、「その思いやりは、悲しむ家族にはとても大切なものだった」と書いた。
https://twitter.com/AttorneyCrump/status/1270063155440496646
バイデン氏のスタッフは、9日の葬儀のためのビデオメッセージも録画する予定だと述べた。
抗議行動は3週目に
フロイドさんの死をきっかけに起きた反人種差別の抗議行動は、3週目に入った。首都ワシントンやニューヨーク、シカゴ、ロサンゼルス、サンフランシスコなどの都市で大規模な集会が開催されている。
参加者たちが「黒人の命は大切」、「正義なしに平和はない」などと唱える抗議デモは、1960年代以降では最大規模の反人種差別抗議行動となっている。
6日には、白人至上主義団体クー・クラックス・クランの拠点として悪評の高かったテキサス州の町ヴァイダーでも、抗議行動があった。
抗議行動の大部分は平和的に行われているが、一部で略奪や暴力が発生したと報じられている。ドナルド・トランプ大統領は、鎮圧のために軍を出動すると脅している。
社会不安が収まり出していることを受け、各地で7日、治安維持措置が解除された。ニューヨーク市は、1週間近くにわたった夜間外出禁止令を解除。トランプ氏は、首都ワシントンからの州兵の撤退を開始するよう命令すると述べた。
イギリス・ロンドンやイタリア・ローマなどでも先週末、反人種差別の抗議行動が起きた。
イギリス・ブリストルでは7日、有名な17世紀の奴隷商人エドワード・コルストンの銅像が引きずり下ろされた。
警官による首の圧迫を禁止
今回の事件を受け、警官が首を圧迫することに反対する動きがアメリカの内外で起きている。
ミネアポリス市議会は、警官による首の圧迫を議決により禁止。一方、連邦議会下院では、民主党が警察改革法案を発表した。
先週末に「黒人の命は大切」を合言葉とした抗議行動が開かれたフランスでは、警官が容疑者逮捕の際に首を締め付けることを禁止すると、クリストフ・カスタネール内相が発表した。
フランスの警察監視機関は、警官についての苦情が昨年約1500件に上り、半数近くが警官の暴力に関するものだったと公表した。
フロイドさん暴行死事件の時系列
- 5月25日――ミネソタ州ミネアポリスで白人警官に首を圧迫され、ジョージ・フロイドさん死亡
- 5月26日――フロイドさんの死に対する抗議始まる
- 5月27日――抗議が各地に広がる
- 5月28日――トランプ氏、略奪者を「ごろつき」とツイート。「州兵を送り込む」、「略奪が始まれば、発砲が始まる」と書いた。ツイッター社は2つ目のツイートを「暴力賛美」として警告を表示した
- 5月29日――デモ取材中のCNN記者とクルーが生中継中に逮捕される
- 5月31日――6日目の抗議が各地で続く
- 6月1日――トランプ氏、事態鎮圧に軍の投入も辞さないと演説。トランプ氏の写真撮影の前に、連邦公園警察などが抗議者を催涙ガスなどで排除
- 6月2日――8日目の抗議続く。首都ワシントンの各地に州兵配備
- 6月3日――関与した元警官4人を州司法当局が殺人罪などで起訴
- 6月4日――ミネアポリスでフロイドさんの追悼式
- 6月5日――ワシントン市長、ホワイトハウス近くの交差点を「Black Lives Matterプラザ」に命名
- 6月8日――フロイドさんの地元ヒューストンで追悼式。民主党は警察改革法案を議会に提出