2020年06月13日 13:40 公開

「ハリー・ポッター」シリーズの作者J・K・ローリング氏(54)の元夫がローリング氏に暴力を振るっていたことを認めつつ、「悪いと思っていない」と発言するインタビュー記事を、英タブロイド紙サンが12日に掲載し、家庭内暴力(DV)の被害者支援団体などが非難の声を上げている。

サン紙の一面見出しは、「JKを叩いた。悪いと思ってない」だった。

ローリング氏は現在、トランスジェンダー(出生時の身体的性別と性自認が異なる人)をめぐる発言が批判を浴びている。これについて10日のブログ記事で、元夫から家庭内暴力を受けていたと初めて公言した。

自分のそうした経験から、女性にとって安全な場所の確保を重視しており、それがトランスジェンダーについて発言する理由の一部だと、ローリング氏は説明していた。

これを受けてサン紙は、元夫ジョルジェ・アランテス氏を取材。アランテス氏はローリング氏が自分から離れていった時に叩いたことを認める一方、「継続的な虐待ではなかった」と話している。

サン紙は、DVを「容認したり美化しようという」意図はなかったと説明している。

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アランテス氏は記事の中で、「彼女を平手で叩いたのは事実だが、虐待はしていない」と話した。また、ローリング氏がブログで、2人の関係は暴力的だったと書いたことについては、「そう言うのは彼女の自由だ。彼女を殴ったというのは本当じゃない」と述べた。

サン紙の広報担当者は、「DVを『容認』したり『美化』しようという意図などない。加害者がまったく反省していないことを明らかにしたかった。我々は常に被害者に共感している」と述べた。

また、同紙には「虐待された女性のために立ち上がってきた長い歴史があり」、「数え切れない被害者が声をあげ、助けを求める手助けをしてきた」と主張した。

「無責任で危険」と批判高まる

イングランドのDVコミッショナーを務めるニコール・ジェイコブス氏はサン紙宛ての書簡で、この記事を「深く憂慮する」を表明した。

「サン紙が、パートナーに対する暴力を公に認めるような人物の声を繰り返し、拡大させることを選んだことは容認できない」としている。

女性の権利団体「Women's Aid」も、この1面には「悪い影響」があり、「見出しが問題だ」と指摘。同紙とDV被害者の声を反映させることについて協議していると発表した。

これまでに「Women's Aid」を含む約20の反DV活動団体が、サン紙に謝罪を求める公開書簡に署名している。

書簡ではサン紙を、「DVや性暴力の被害経験を明らかにした女性に対して、加害者に発言の場を与え、女性の体験を矮小(わいしょう)化させるような行為は、無責任で危険だ」と非難している。

イギリスの新聞を含む出版メディアの自主規制・監督団体「独立報道基準組織」(IPSO)には、サン紙の記事をめぐり、これまでに500件以上の苦情が寄せられている。

政界からも批判の声が相次いでいる。

野党・自由民主党はサンに、12日付の売り上げをDV被害者支援団体に寄付するよう呼びかけた。

最大野党・労働党で家庭内虐待と安全対策を担当するジェス・フィリップス影の担当相は、「サンの見出しはひどい。加害者はそれに輪をかけてひどい。この加害者が傲慢に認めたひどい内容しか信じない人がいる。被害者の言い分に疑念を投げかけることがいまだに、加害者の最大の武器だ。『誰もお前のいうことなんか信じない』と加害者は言うのだ」と強く非難した。

労働党のステラ・クリーシー下院議員も、「『加害者の言い分』を載せたサンの判断は、いかに女性への暴力が『家庭の中のこと』とあしらわれやすいかの反映だ。そのせいで議論は、『どうやって阻止するか』ではなく『どうしてそうなったのか』の議論になってしまう」と書き、当事者は責任をとるよう求めた。

ローリング氏とトランスジェンダーの問題とは

今回のことの発端は、ローリング氏による7日のツイートだった。「月経のある人のためCOVID-19後にこれまでより平等な世界を作る」というタイトルの記事について、「月経のある人? そういう意味の言葉が、かつてあったんじゃない? 思い出すの、誰か助けて。ウンベンだっけ? ウインプン? ウーマド?」」とツイートした。

これに対して、<女性(ウーマン)という言葉にはトランスジェンダーの女性が含まれる。ローリング氏の発言はそれを否定するトランス差別だ>という批判が湧き起こった。

これまでに、ローリング氏原作の「ハリー・ポッター」シリーズや「ファンタスティック・ビースト」に出演した英俳優のダニエル・ラドクリフ氏やエディ・レッドメイン氏、エマ・ワトソン氏たちが、「トランスの女性は女性だ」と表明し、ローリング氏の主張との間に一線を引いている。

12日には出演者のルーパート・グリント氏も、「トランスの女性は女性。トランスの男性は男性。誰もが、他人から判断されることなく、愛に満ちた生活を送る権利があるはずだ」と表明した。

一方のローリング氏は、女性の身の安全を守るためには身体的性別によって区分けされた空間が必要なこともあると論じている。

「私がこういうことを話すのは、同情を買いたいからではない。私と同じような経験をして、身体的性別で区切られた空間が欲しいと思うからといって、差別的な分からず屋と罵られた大勢の女性と連帯したいからだ」と、ローリング氏は書いていた。

「性別」と「ジェンダー(性自認)」は意味が異なり、前者は身体的なことがらを、後者は心理的・社会的なことがらを表す。

トランスジェンダーの人は、シスジェンダー(出生時の身体的性別と性自認が同じ人)と同じ権利が欲しいと訴えている。一方、トランスジェンダーで女性を自認する人の権利行使が、生まれつき女性の人の権利を侵食する場合もあると懸念する人たちもいる。


内閣府男女共同参画局では、DV被害者に必要な情報を提供しています。

また、各都道府県や市町村に「配偶者暴力相談支援センター」が設置されています。

DV相談ナビでは、全国共通の電話番号(0570-0-55210)から相談機関を案内するサービスを実施しています。


(英語記事 Paper faces backlash for headline on Rowling's ex