2020年06月16日 12:56 公開

米連邦最高裁判所は15日、同性愛者やトランスジェンダー(出生時の身体的性別と性自認が異なる人)であることを理由に人を解雇するのは、公民権法に違反しているとの判断を示した。

最高裁は、性別による差別を禁じた連邦法について、性的指向や性自認による差別も対象にしていると考えられるとした。この判断には裁判官6人が賛成、3人が反対した。

最高裁判事の構成が保守化する中で、LGBT(性的少数者)の労働者や支持者らにとって大きな勝利となった。

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雇用主側の弁護士は、1964年に成立した公民権法について、性的指向や性自認をめぐる事案は想定していないと主張していた。ドナルド・トランプ大統領はこの見解を支持していた。

トランプ氏の指名で最高裁判事となったニール・ゴーサッチ判事は、性的指向や性自認を理由に従業員に不利な扱いをする場合、性についての検討を伴うと判決文で指摘。

「誰かが同性愛者やトランスジェンダーだからと、それを理由に個人を解雇する雇用者は、その人が別の性だったら問題視しなかったはずの特徴や行動を理由に、その人を解雇することになる」と述べた。

公民権法の成立時に、トランスジェンダーについての適用が想定されていなかったとしても、答えは「明確」だとし、「同性愛者やトランスジェンダーを差別することは、その人を性をもとに差別することになる」と、ゴーサッチ判事は書いた。

一方でサミュエル・アリート、クラレンス・トマス、ブレット・キャヴァノーの保守派判事3人は、今回の判断に反対した。

検討された3件の訴訟

最高裁判断の元となったのは、同性愛者やトランスジェンダーであることを理由に解雇されたと主張した3件の訴訟だった。

かつて職場で6年間、男性として振る舞っていたエイミー・スティーヴンズさんは、同僚に手紙を書き、「本当の自分は『エイミー・オーストレイリア・スティーヴンズ』なので、適切なビジネス服を着て」仕事に戻ると伝えた。

その2週間後、スティーヴンズさんは女性の服を着て仕事をすると言い張ったとして解雇された。

雇用主の葬儀会社は、「スティーヴンズさんの生物学的な性別に適した」服装規定に従ってもらいたかったと、裁判書類で主張した。

下級審はスティーヴンズさんの訴えを認めた。スティーヴンズさんは先月、亡くなった。


ニューヨークのスカイダイビング指導者だったドナルド・ザーダさんも、関連訴訟を起こした1人だ。彼は2014年にスカイダイビングの事故で亡くなった。

ザーダさんは、一緒にダイビングをしていた女性客に対し、自分は「100%同性愛者」だから接近して体が触れても大丈夫だと冗談を言った。すると解雇された。

ザーダさんが勤めていた会社は、客に個人情報を明かしたため解雇したのであり、同性愛者だから解雇したのではないと主張。しかしニューヨークの裁判所は、ザーダさんの訴えを認めた。

もう1つの訴訟は、ジョージア州で児童福祉のコーディネーターとして働いていたジェラルド・ボストックさんが起こした。

ボストックさんは、同性愛者のソフトボール・リーグに参加し、性的指向を明らかにしたところ、解雇された。

雇用していたクレイトン郡は、ボストックさんの解雇について、「郡職員にふさわしくない行為」の結果だと説明。

ボストックさんは差別だとして訴えたが、アトランタの連邦裁判所で敗訴した。

トランプ政権は保護を縮小

公民権法の第7編は性別による差別を、ジェンダー、人種、肌の色、出身国、宗教による差別と共に禁じている。

バラク・オバマ前大統領の政権で、同法の順守を求める連邦雇用機会均等委員会は、性自認や性的指向による差別も同法の対象になるとしていた。

しかしトランプ政権は、医療などの分野における性的少数者の保護を縮小してきた。

州によってはすでにLGBTの労働者も保護の対象とすることを打ち出しているところもあるが、少数にとどまっている。

権利団体は歓迎

LGBTの権利擁護を訴える人々は今回の最高裁判断によって、職場で自分の性を秘密にしなくてはならない時代は終わると歓迎した。

性的少数者の権利擁団体グラード(GLAAD)のサラ・ケイト・エリス代表は、「トランプ政権がトランスジェンダーの権利を縮小し、反トランスジェンダーの暴力が各地で起きている中で、この判断はトランスジェンダーとLGBTQの人の尊厳を認めることへの一歩となる」と述べた。

米自由人権協会は、トランスジェンダーだったエイミー・スティーヴンズさんが用意していた声明を公表した。

「私に対する扱いが間違いで違法だと裁判所が認めたことをうれしく思う」、「私とトランスジェンダーの仲間たちには法律上の居場所があると裁判所が述べたことに感謝する。これまでより安全だと感じるし、社会に受け入れられていると感じる」。

一方、スティーヴンズさんの訴訟について検討を最高裁に求めた、保守的なキリスト教団体「自由防衛同盟(ADF)」は、今回の判断にがっかりしていると述べた。

同団体は、「スポーツや女性用シェルターなどさまざまな現場で、女性や少女にとって混乱と重大な不公正を生み出す」と批判した。

これについてゴーサッチ判事は、そうした事態は今回の審理の対象ではないと判決文で書いた。

「法廷が検討すべき唯一の問題は、雇用主の解雇理由だ。同性愛者やトランスジェンダーであることを理由に誰かを解雇する雇用主は、『その人の性』のみを理由に、解雇したり差別したりしたのか。この点のみが問われている」と、判事は説明した。

<分析>アンソニー・ザーカー北米担当記者

今回の判断がいかに重大か、表現しきれないほどだ。

連邦最高裁は長年にわたり、同性愛者の権利を拡大する判断をしてきたが、トランスジェンダーの法的保護について直接言及したのはこれが初めてだ。

ほんの数日前には、トランプ政権がトランスジェンダーを健康保険から除外すると発表したばかりだ。それだけに、このタイミングでの最高裁判断は、この問題を際立たせることになった。

トランスジェンダーの権利が政治的な争点になりつつある。その中で最高裁の多数派は、どちら側に立つかを明確にした。

連邦法にもとづく労働者の権利保護を同性愛者やトランスジェンダーの人に包括的に適用するという判決文を書いたのは、トランプ氏が指名したゴーサッチ判事だった。

左派の懸念をよそに、ゴーサッチ氏の司法判断は本人の政治的傾向がこうだからどうと、単純に予測しにくくなっている。

同じく共和党政権に指名されたジョン・ロバーツ最高裁長官も、今回の判断に賛成した。長官はこれまでたびたび、世間の予想と異なる判断を示してきた。

ゴーサッチ判事もロバーツ長官もこれから、保守派の激しい攻撃に遭うだろう。

(英語記事 US Supreme Court backs protection for LGBT workers