2020年06月18日 13:43 公開

イギリス政府は17日、貧困家庭の救済措置として、夏休み期間中も学校の無料給食制度を継続すると発表した。サッカー・プレミアリーグのマンチェスター・ユナイテッド(マンU)に所属するマーカス・ラッシュフォード選手が政府に呼びかけ、実現した。

政府は新型コロナウイルス流行に伴うロックダウン(都市封鎖)中、貧困家庭救済のために学校給食を継続していたが、学年の終わる7月で終了する予定だった。

これに対してラッシュフォード選手は15日、下院議員宛の公開書簡を発表。子どもの頃に無料給食に支えられたという自身の経験を交えながら、政府に方針の変更を訴えた。

17日にはボリス・ジョンソン首相と電話で会談し、方針の変更を取り付けた。これにより、イングランドで130万人の子どもたちが、夏休み中も無料で給食を受け取ることができるようになった。

ラッシュフォード選手はBBCの番組に対し、「やるべきことはまだ残っている」と話し、今後も制度の改革に取り組んでいくと話した。

<関連記事>

イングランド代表でもあるラッシュフォード選手はロックダウン中、慈善団体「FareShare UK」と協力し、貧困家庭などに対して300万食分の食事を確保するため、2000万ポンド(約26億8000万円)の寄付を集めていた。

今回「FareShare UK」は、政府が夏休みの終わりまで無料給食制度を延長しない場合は法的措置に踏み切ると発表していた。

ラッシュフォード選手は公開書簡の中で、子どもの頃に学校の無料給食やフードバンクを利用していた経験を語り、この話は「イングランドの家庭にはあまりにも身近なことだ」と述べた。

「私の母は最低賃金でフルタイムで働いて、家族がきちんとした夕飯を食べられるように頑張っていた。でも、それでは足りなかった」

その上で、「(政府が方針を)Uターンし、最もぜい弱な人たちの生活を守ることを最優先にする」のは、「政治ではなく人道の問題だ」と話した。

「決定変更に感謝」

BBCの番組に出演したラッシュフォード選手はジョンソン氏との会談について、「首相が決定を覆してくれたことに感謝する」と話した。また、電話の中でジョンソン首相から、「キャリアを前向きな方向に使ってくれたことを」感謝されたと述べた。

「首相は、意見を持って人々に広める人がいること、声をあげるプラットフォームがない人の声になり、できる限り声をあげる人がいることを喜んでいた」

また、夏休みにも給食制度が延長されたことで、「次に何をするべきかを考える6週間の猶予ができた」と話した。

「やるべきことはもっと残っているので、これで終わりにしたくはない。反応を分析する必要もある」

「年間を通して苦労している人たちがいる。そうした人々の状況についてもっと把握し、どんな支援が最善なのかを考える必要がある」

「最近になってやっと知った」

ジョンソン首相は首相官邸で毎日行われている定例記者会見で、ラッシュフォード選手の「貧困に関する議論への貢献」を称賛した。

「きょうラッシュフォード選手と話した。彼の取り組みについては正直、最近になってやっと知ったが、その取り組みの成果について感謝を述べた」

「学校給食が一般的に学期中に適用されべきなのは明らかだが(中略)我々は今現在、家庭が直面している圧力を理解しなくてはならない」

イングランドの無料給食制度では、子ども1人につき1週間当たり15ポンド分の給食券が支給される。夏休みに制度が延長されたことで、新たに1億2000万ポンドのコストがかかるという。

一方、スコットランドとウェールズではすでに、給食券や食事の宅配、銀行口座への送金といった制度を使って、夏休み中も家庭支援が続くことが決まっている。

北アイルランドのアーリーン・フォスター首相も、「必要な資金が確保でき次第」、同様の食事支援制度を夏休みの終わりまで延長したい考えを示した。

著名サッカー選手の影響、効果は?

ジョンソン政権の閣僚らは当初、給食制度を夏休み中にまで延長しないという決定を擁護していた。

しかしBBCのローラ・クンスバーグ政治編集長は、ラッシュフォード選手のような「若くて人気があり、意見をはっきりと述べられる著名人」の介入で、「この擁護も時間を追うごとに続かなくなった」と分析した。

ハンナ・リチャードソン教育・社会問題担当記者によると、学校の休暇中に食事に困る貧困家庭の問題は、今に始まったことではないという。

慈善団体は毎年夏になると、こうした家庭の報告書を発表して事態改善に努めているが、ラッシュフォード選手の登場で政府が動くに至ったと述べた。

一方で、今回の政府の決定では、現在、給食制度を受けている家庭だけが対象となっており、これから学期末までに新たに困窮した家庭などは対象外となってしまうと指摘。

ロックダウンによって社会保障申請者が増えている中で、今回の決定が十分なのかは疑問だと話した。

雇用当局の発表によると、イギリスで5月にロックダウンの影響で失業手当などを含む雇用関係の社会保障を申請した人は280万人に上っている。

また、ジョゼフ・ローントゥリー基金とセーブ・ザ・チルドレンが共同で行った調査では、6月に社会保障の一括給付制度「ユニヴァーサル・クレジット」や子どもの扶養控除を受け取った家庭の半数が、家賃や光熱費などを支払えなかったと回答。

さらに、回答者の7割が食費や日用品の購入費を削ったと答えている。


マーカス・ラッシュフォード選手とは

  • マンチェスター出身のラッシュフォード選手は7歳からマンUに所属し、キャリアを積んできた
  • 18歳で欧州サッカー連盟(UEFA)ヨーロッパリーグ、FCミッティラン(デンマーク)戦の補欠選手に選ばれたが、別選手のけがによってスターティングメンバーに繰り上げられた
  • この対戦で2得点をあげ、ヨーロッパリーグで得点したマンU選手の最年少記録を塗り替えた
  • この対戦の3日後には、アーセナル戦でプレミアリーグ・デビューを飾った。これまでに137試合に出場し、64点をあげている
  • 2016年のUEFA欧州選手権と2018年のワールドカップでイングランド代表に選ばれた。22歳までに国際試合に38回出場し、10得点をあげている

(英語記事 Rashford seeks more change after food voucher win / Food voucher U-turn after Rashford campaign / Rashford calls for school meals U-turn