上西小百合(前衆院議員)

 昨年7月の参院選広島選挙区をめぐり、地元議員らに多額の現金を配布したとして、東京地検特捜部が公職選挙法違反(買収)の疑いで、河井克行前法相と妻の案里参院議員を逮捕した。

 現在は2人とも離党しているが、天下の自民党所属かつ大臣まで務めた議員を逮捕するにあたり、検察は約100人に及ぶ膨大な聴取を行い、録音・録画している。この姿勢から、よほど有罪判決を勝ち取る自信があるに違いない。案里氏も、いつまでも人を小バカにしたような表裏にあふれた笑みを浮かべてはいられないだろう。

 また、今後の捜査で重要視されてくるのは1億5千万円という異例の「巨額公認料」である。自民党から河井陣営に振り込まれたこの資金が買収の原資とみられており、自民党や二階俊博幹事長も「影響を及ぼす大物ではない」と素知らぬふりを決め込むことはできない。

 選挙期間は街頭に立ち、「どうか皆さまの清き一票を私に託してください」と必死にお願いをしているふりをしているが、裏では税金などを原資とする不適切な金銭が飛び交っている。それが分かれば、国民はますます政治にバカバカしさを覚え、投票に行く気持ちも削がれでしまうのではないだろうか。この事件をきっかけに、政治の現場から一刻も早く膿(うみ)を出し切らねばならない。

 私は常々「今の選挙は『どの政党が一番好きですか選手権』で候補者なんて誰でも一緒ですよ」と話している。なので、裏で多少の金銭が動くことがあっても、河井夫妻のようにここまで多額の札束が飛び交うことはレアケースであろう。

 もちろん、多少の金銭授受であっても明確な公選法違反だ。しかし残念ながら、政治の現場ではそうした状況が数多く存在している。

 まずは今回、渦中となった広島の選挙区事情に目を向けてみよう。昨年の参院選では、新人の案里氏のほかに自民党からもう一人、当時現職で岸田派の溝手顕正元参院議員会長が立候補していた。広島選挙区の改選数は2人で、野党の現職候補もいる中で自民党の公認候補が2人出たわけである。これでは自民党の支持票を案里氏と溝手氏で二分することとなり、下手をすれば片方の候補が落選する可能性が生じる。

 地元議員や利権を狙う支援者なんて薄情なものだから「参院議員を長く続けていて、気心も知れている溝手さんの方が使い勝手がいいから勝ってほしいけど、勝ち馬には乗っていたいなぁ」というのが本音で、両者への思い入れなどはない。
記者会見で辞意を表明する広島県三原市の天満祥典市長=2020年6月25日午後、三原市役所
河井夫妻からの金銭授受を認め、記者会見で辞意を表明する広島県三原市の天満祥典市長=2020年6月25日午後、三原市役所
 要するに、昨年の参院選は自民党票を二階派と岸田派が死に物狂いで取り合う「仁義なき戦い」が広島で繰り広げられていたのだ。二階氏は、案里氏が自身の派閥所属ということもあり、幹事長のプライドをかけてがっちりサポートすることに決めていたに違いない。

 よくある話だが、「溝手氏が当確で、河井氏は危ない」という情報を流せば、溝手陣営は気が緩むし、党本部も案里氏を落選させないよう真剣にテコ入れを始めてくれる。その証拠に、応援演説で安倍晋三首相をはじめ、自民党幹部が続々と選挙区入りした。巨額の公認料もその流れで決められたのだろう。