斎藤彰(ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長)

 政府は15日突如、地上配備迎撃システム「イージスアショア」の配備停止を発表した。その理由として、迎撃の際、発射したミサイルのブースターが配備予定地に落下する危険が排除できないからだという。だが、根底にはそもそも「ミサイル防衛」システムそのものの信頼性に対する不安がある。

 「イージスアショア」はすでに海上自衛隊が、飛来する敵国ミサイルをレーダーでいち早くとらえ迎撃するため護衛艦に配備している「イージスシステム」の陸上型施設で、配備予定基地として、山口県の陸上自衛隊むつみ演習場と秋田県の新屋演習場の2カ所に決まっていた。しかし、同システムを含む、飛来するミサイルを途中で撃墜という「ミサイル防衛」コンセプトそのものについて、アメリカの専門家の間では早くから、信頼性に対する疑念が表明されていた。

 たとえば、権威ある「全米科学アカデミー」の特別調査チームが2012年9月、発表した報告書「弾道ミサイルの論理性Making Sense of Ballistic Missile Defense」は、国防総省が取り組んできた「地上配備ミッドコース・ミサイル防衛」計画(GMD)について「コストパフォーマンスの面から不備が多く、とくにインターセプター、センサー、オペレーションなど洗い直しが求められる」との厳しい評価を下している。

 それ以前にも、おもに中東に実戦配備された「パトリオット・ミサイル」の場合、1991年湾岸戦争の際、イラク軍が発射した「スカッド・ミサイル」に対処するため大量に投入されたが、命中率はわずかに9%にとどまったという記録が残されている。

 その後米軍は、GMD精度と信頼性向上めざし、太平洋マーシャル列島クエゼリン環礁にある「ロナルド・レーガン実験場」から打ち上げられた模擬ミサイルを中間飛行段階の「ミッド・コース」段階で迎撃するためカリフォルニア州バンデンバーグ基地から迎撃ミサイルを発射する実験を極秘で繰り返し行ってきた。

 しかし、米科学雑誌「Scientific American」などの追跡報道によると、「全米科学アカデミー」が指摘したさまざまな「不備」がその後、解決されたという確たる発表はいまだになされていない。

 そうした中、英国のテレビ局「スカイ・ニュース」は2018年2月、米軍が北朝鮮の核ミサイル脅威に対処するため、秘密裏に実施した「SM-3BLOCK Ⅱ」型迎撃ミサイル実験が失敗に終わったと報じた。

 「米当局筋」の話として伝えたところによると、ハワイ・カウアイ島発射場から発射された同型ミサイルは飛来する模型目標体の迎撃に失敗、開発に携わった「レイセオン Raytheon」社も含め、原因究明に乗り出したという。さらに、同年6月に行った迎撃実験でも失敗していたことも伝えた。同じ年に行った実験で2度も失敗していたことになる。
写真はイメージ(Getty Images)
写真はイメージ(Getty Images)
 その後、同年12月に同様の迎撃実験が日米合同で改めて実施され、この時には、成功したことが米ミサイル防衛局と防衛装備局双方から合同発表された。

 ところが、わが国防衛施設庁は前年の2017年に、すでにこの「SM-3BLOCK」すなわち「イージスアショア」配備計画を決定ずみであり、その後は、実験成功時は公表され、失敗した場合は秘密裏にするなど、信頼性が十分に確立されないまま、今日に至ったと言うことができる。

 さらに「ミサイル防衛」そのもののコンセプトについても、以前から多くの問題点が指摘されてきた。そのひとつは、米軍が迎撃ミサイルの「開発」から「配備」に至る過程で実施してきた「実験」の信頼性についてだ。

 その実態は今日にいたるまで「極秘」とされ、詳細はつまびらかではないが、事情に詳しい専門家たちがこれまでに明らかにしてきたところによると、迎撃テストの際は例外なく、標的となるべき模擬ミサイルについては、あらかじめ正確な発射地点、秒単位の発射時間などの重要情報が迎撃側のミサイル・コンピューターにインプットされ、計算通りに軌道に乗り、予定推定時刻に飛来してくる目標に向けてミサイルが発射される。このため、命中精度は高くなる。それでもたびたび、標的を正確にとらえられず失敗に終わったケースが少なくない。