田母神俊雄(元航空幕僚長)

 先般、河野太郎防衛大臣が地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の導入停止を表明し、時間をおいて間もなく安倍晋三総理もこれを容認する談話を発表した。諸悪の根源である北朝鮮は、今やミサイル発射を繰り返し行うだけでなく、韓国脱北者団体による体制批判ビラ散布に反発し、融和路線を進めていた韓国への強硬姿勢をエスカレートさせている。

 6月16日には、西部の開城(ケソン)工業団地内にある南北共同連絡事務所を当初の予告通り爆破した。このような時期に、なぜ日本が北朝鮮などのミサイルを迎撃するイージス・アショアの導入をとりやめるのかと不思議に思う日本国民は多いであろう。しかし私は、この判断はわが国の安全保障全般を踏まえれば、極めて妥当な措置だと考えている。

 というのも、自衛隊の戦力は専守防衛という考え方により、過度に防御に偏った戦力構成となっている。そのため、攻撃力に関しては米軍に依存するという想定だ。つまり、自衛隊とはわが国を守る「盾」であり、敵に反撃する「矛」については米軍に期待しているのだ。

 諸外国の軍隊は通常の場合、全体としての戦力構成は攻撃力と防御力のバランスが保たれている。その中でも空軍力については、主として攻撃力と位置付けられている。しかし、わが国の航空自衛隊では、防空という「防御が主体の作戦」を遂行することになっており、巡航ミサイルや爆撃機のような敵基地攻撃能力を有していない。

 すなわち、世界の中で自衛隊だけが「攻守のバランス」を考慮されていない軍隊なのだ。自衛隊は米軍と一緒に行動しなければ軍隊として完結することができず、わが国は戦後70年を過ぎてもなお、米軍占領下で奪われた「日本軍」を取り戻すことができずにいる。わが国は世界第3位の経済大国と言われながら、いまだ日米安全保障条約に基づき、米軍によって守られている。

 この構造が生まれた背景としては、1950年に始まった朝鮮戦争により、自衛隊が警察予備隊として組織されたことに起因する。陸上自衛隊は占領下の駐留米軍が朝鮮戦争に出兵するための穴埋めの治安維持軍として、海上自衛隊は日本周辺の海で行動する米軍の安全確保をするための掃海部隊として創設された。航空自衛隊に関しては、日本に基地を置く米空軍のために「空の守りを固める防空部隊」として立ち上がった。戦後、自衛隊は米軍の補完戦力として出発し、今なお、そこから脱していないのである。

 独立国家とは、自分の国を自分で守ることが基本だ。であるからこそ、今回のイージス・アショアの計画見直しを機に、わが国は憲法を見直し、自衛隊を諸外国同様に正規の「日本軍」として位置付けるべきだ。それと同時に、今後は限られた防衛予算を防御力だけでなく、攻撃力にも考慮したバランス型の防衛力の整備を進め、「完結された軍隊」を目指すことが重要である。

 イージス・アショアは1基約1千億円以上もする非常に高価な防衛兵器だ。ただ自衛隊はこれまでも、防御という部分に多くの防衛予算を投じてきた。もしここでイージス・アショアを導入すれば、防御力の整備にさらなる予算を増額することになる。これでは攻撃力は持てず、戦力の攻防バランスを一層崩すことになろう。しかもイージス・アショアのような高額兵器をもってしても、防御だけでは完全に日本を守ることはできない。

 日本を完全に守るためには、日本へ攻撃を企図する相手のミサイル攻撃をやめさせることだ。そのためには「攻撃できるならやってみろ、必ず反撃してこちらの被害以上の大損害をお前にも与えてやる」という「抑止の態勢」が重要だ。敵基地を破壊したり、報復するような攻撃力がなければ、他国が軍事力を行使することへの抑止には、決してなり得ない。

 そもそも戦争は何のために行われるのだろうか。端的に言えば「金もうけ」であろう。もうからない戦争を仕掛ける国家指導者などいない。
2019年5月9日に朝鮮中央通信が配信した「火力攻撃訓練」の写真。米国防総省は弾道ミサイルと断定した(朝鮮中央通信=共同)
2019年5月9日に朝鮮中央通信が配信した「火力攻撃訓練」の写真。米国防総省は弾道ミサイルと断定した(朝鮮中央通信=共同)
 北朝鮮でさえも、日本にミサイル攻撃を行った結果を予測する。ミサイル攻撃で被害を与えれば、日本がさらなる攻撃を恐れて北朝鮮に資金を献上するだろうか。そのようなことはあり得ないだけでなく、逆効果だということは彼らだって考える。経済制裁や米軍からの報復攻撃などで、さらなる北朝鮮の損失を招くだけだ。ゆえに日本海への度重なるミサイル発射も「撃つぞ」というジェスチャーのみで、日本で実際の被害が出るような撃ち方をすることは決してない。

 彼らがミサイル攻撃するのは、北朝鮮指導部の生き延びる手段が全て閉ざされ、活路を見いだす方法がないという状態まで追い込まれるような状況だけだ。それでも、わが国のような攻撃力を持たない軍隊、そして国家は相手から見て全く怖くない。だからこそ、現状のうちにミサイル防衛網を構築する一方で、自衛隊の攻撃力も保持することこそ、日本が外交交渉などで見下されないために必要なのである。