森本敏(拓殖大学総長、元防衛大臣)

 6月15日、河野太郎防衛大臣は、防衛省が進めていた地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の配備計画の停止を、突如として表明した。本稿では、防衛戦略全体を論じることは別の機会に譲り、防衛戦略の中で極めて重要な位置を占める「ミサイル防衛」と、その手段としての「イージス・アショアについて所論」の一端を展開したい。

 なお、今夏以降に国家安全保障会議(NSC)を中心に安全保障戦略の議論が行われるとのことで、これは大いに期待される。その際、国家安全保障戦略の見直しを行うとともに、防衛計画の大綱(防衛大綱)をやめ、国家安全保障戦略に基づき国家防衛戦略と国家宇宙防衛戦略を策定すべきである。

 そもそも防衛大綱とは、日本における安全保障政策の基本的指針とするものであり、およそ10年後までを想定している。一方で中期防衛力整備計画(中期防)は、5年ごとに具体的な防衛政策や装備調達量を定めている。

 しかし現在の防衛大綱は、中期防の予算を獲得するための根拠を示す位置づけがなされてしまっている。そのため、中期防において装備の変更・修正が必要になると、その根拠となる防衛大綱を修正する必要が生じる。これでは発想と手順が逆になってしまう。そのため防衛大綱をやめて、中期防を3年くらいで見直しするのがよいのではないだろうか。

 近年の戦闘の様相や速度は戦略環境と技術革新によって急速な変貌を遂げている。ゆえに防衛戦略を策定するにあたっては「防護目標および対象」と「脅威見積もり」を評価して、防衛方針と戦闘要領を的確に示す必要がある。

 国家の防護目標と対象は、国土や国民とその財産という点で変化要因が大きくない。しかし今日の戦闘様相はグレーゾーン状態で始まり、軍隊同士の正規戦だけでなく、工作員などによる非正規戦や情報戦、サイバー領域まで含むハイブリッド戦闘という特色を有する。そのため、脅威見積もりは戦略環境や国際政治、国際経済上の状況によって大きく変化する。

 日本の防衛にとって、最大脅威は北朝鮮とされている。したがって、当面の対処要領の策定として北朝鮮を優先することは問題ないが、防衛戦略上、真の脅威対象は中国であり、ロシアがこれに次ぐ。米国にとっての脅威対象は中国、ロシアという戦略的競争国や国際テロ組織であり、北朝鮮はイランと並んで二の次である。日米で脅威認識が異なる部分は、共同運用性を追求する際、調整が必要だ。

 脅威と戦闘の様相が戦略環境と技術革新に伴って変貌していることは既に指摘したが、とりわけ最近の技術革新のうち、人工知能(AI)や量子力学、機械の自律化や無人化を駆使したデジタル通信電子技術、戦域のクロスドメイン(領域横断)の発達は戦闘様相を一変させている。特にデジタル技術と宇宙・サイバー分野の開発には、厳に留意する必要ある。

 というのも、技術革新の課題に最も多く直面する分野がミサイルと、それに対する防衛システムであるからだ。兵器としてのミサイルは先の大戦以降、急速に発展してきた。

 今日でもミサイルが重要な役割を占め、戦闘の帰趨(きすう)を担うとされるのはなぜか。それはミサイルが費用対効果的に高く、運用上の人的損害がない上に、速度と精度、破壊力と到達距離を脅威対象と自国の技術開発に応じて柔軟に選択可能であるためだ。特にミサイルは核兵器や生物兵器など大量破壊兵器の運搬手段になり得るだけでなく、相手にとって迎撃が難しいという特色を有する。
2019年10月3日付の北朝鮮の労働新聞が掲載した「北極星3」の発射実験の連続写真(コリアメディア提供・共同)
2019年10月3日付の北朝鮮の労働新聞が掲載した「北極星3」の発射実験の連続写真(コリアメディア提供・共同)
 ミサイルの攻撃力は、弾頭威力や射程、精度、誘導システム、対電子戦能力を含む抗堪(こうたん)性の総合力によって決まる。他方、ミサイル攻撃への対処力としては「懲罰的抑止」と「拒否的抑止」への対応能力により判断される。

 懲罰的抑止力は主として報復攻撃力で構成されるが、重要な要素として次のものがある。

・破壊対象への命中精度および破壊力の高い第二撃の攻撃力
・目標に関する情報収集能力
・先制攻撃による高度な生き残り性と抗堪性